第7話 菜園でお肉
「これが家庭菜園……?」
「うん、そうだ。僕の【家庭菜園】だよ」
「木に肉がなっているように見えるんだけど……?」
アニィが指さす先には、畑から生えてきた木にぶら下がる牛肉や豚肉があった。
果物のときもそうだったけれど、樹木に実ができる形だ。
このタイプはさすがに少し収穫までに時間がかかるけど、それでもせいぜい二時間くらいだ。
すごい勢いで木が伸びていく様は、見ていて楽しい。
なお同じ場所に同じお肉を作る場合は、わざわざ樹木の成長を待つ必要がないため、その分、時間を短縮することができた。
「ああ、もうすぐ収穫できそうだな」
「収穫!? いや、肉ってそんなふうにできるものじゃないでしょ!?」
「あれ? そうなのか?」
「え?」
「……え?」
僕はアニィと顔を見合わせた。
「もしかしてだけど、あんた、肉が木から生えてくるとか思ってないわよね?」
「……そ、そんなわけないだろう」
僕は目をそらしながら答えた。
「絶対思ってたでしょ! バカなの!? 肉って牛とか豚とかの動物のお肉なのよ!? あんなふうに生えてくるものじゃないの!」
「現に生えてきてるけど……」
「それはあんたの菜園がおかしいのよ!」
そうだったのか……。
今まで店に並んでいる加工済みの肉しか見たことがなかったので知らなかった。
僕はセナを見る。
「知らなかったー」
「そうだよな、そんなこと知らないよな」
よかった。
どうやら知らないのが普通らしい。
「普通じゃないから! あんたたち兄妹がおかしいだけだから! ねぇ、シーファ!」
「……知らなかった」
「シーファ、あんたもか……」
アニィは腹心に裏切られた独裁者のように頭を抱えた。
「まぁとにかく、うちで穫れるお肉は美味しいぞ」
「た、確かに、すごく新鮮で美味しそうだけど……」
そんなことを話しているうちに、収穫の頃合いになっていた。
〈収穫しますか?〉
はい。
いつものように簡単収穫。
「あれっ? 肉が消えた!?」
「うん、収穫したからね」
「いつの間にここに!?」
「せっかくだし、お肉焼くから食べていきなよ」
「ほ、本当にそれ食べられるの……?」
不安そうなアニィを後目に、僕は倉庫に眠っていたバーベキューセットを庭の端っこに設置する。
たぶん昔、父さんが買ったやつだろう。
これは点火用に火石という特殊な石が使われていて、簡単に火をつけることができた。
「ほら、アニィ、ぼーっとしてないで手伝ってくれ。お肉を切ってもらえるか?」
「いいけど……それ普通、セナちゃんの役割じゃない?」
「あたしは無理だよー。前にお兄ちゃんに言われて試しに包丁握ってみたけど、手が滑ってお兄ちゃんのお肉斬っちゃいそうになったしー」
あれは本当に怖かった。
あれ以来、セナに包丁は持たせないようにしている。
「それ、ワザとやったんじゃ……。……まぁ、分かったわよ」
「私、野菜を切る」
シーファさんも手伝ってくれるようだ。
用意してあった串に二人が切った肉と野菜を刺し、それを網の上で焼いていく。
「いい匂い……」
「うん、美味しそう」
「美味しいよ!」
焼けたお肉の香ばしい匂いに、僕も思わず涎が零れそうになる。
「そろそろいいかな」
「いっただっきまーす!」
「こら」
お客さんよりも先に手を伸ばしたセナを思わずたしなめるが、まったく気にせず肉にかぶりついた。
「んー、美味しい~~~~っ!」
幸せそうな顔で足をバタバタさせるセナ。
「いただきます」
続いてシーファさんが小さなお口で肉を齧る。
セナと違って、大口を開けるような下品な真似はしない。
次の瞬間、大きく目を見開いた。
「っ!? お、美味しい……」
か、可愛い……じゃなくて、気に入ってくれたようでよかった。
最後に半信半疑といった様子のアニィが、恐る恐る肉を口にした。
「なっ……何これ!?」
アニィの家は定食屋さんだ。
小さい頃から手伝いをしてきたこともあり、料理にもそれなりに精通している。
だから恐らく彼女の判定こそが最も的確なのだろうけれど――
「美味しい! 美味しすぎる! こんなに美味しいお肉、初めて食べたんだけど!? 中から肉汁がどばっと溢れてきてヤバい!」
辛口の彼女がここまで絶賛するなんて珍しい。
どうやらアニィも認めざるを得ないほど美味しかったようだ。
「牛肉も美味しいけど、豚肉も凄い! 何なのこれ!? 本当に木から生えてきたとは思えないんだけど!」
「うん。私もこんなに美味しいお肉、初めて食べた」
「肉だけじゃないわ! 野菜もキノコも美味しい! これも全部ここで穫れたやつなの!?」
「もちろん」
それから三人は凄い勢いで食べ続けた。
セナやアニィはともかく、シーファさんも結構食べるんだな……。
まぁ冒険者だしね。
そう言えば、セナも最近、以前にも増してよく食べるようになっている気がする。
それなりに用意していたはずなのに、気づけばあっという間に平らげてしまっていた。
「食った食ったー、げっぷ」
「うん、沢山食べたね。美味しかった」
セナがいつものように遠慮なくゲップをし、シーファさんは満足そうに口を布巾で拭く。
さすがシーファさんだ。ゲップなんてはしたないことはしない。
「う~、もう食えない……」
アニィは大きくなったお腹を押さえ、地面にひっくり返っていた。
どう見ても食べ過ぎだ。
「大丈夫か?」
「たぶん……。それより、ジオ、あんたにお願いがあるんだけど……」
寝転がったままお願いとは、横着なやつだな。
「あんたの菜園で穫れた食材、うちの店で使わせてくれない?」
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