第4話 穫れたて野菜の絶品シチュー

 妹のセナはまったく料理ができず、料理はもっぱら僕の担当だった。

 というか、家事全般、僕の担当だ。


 あのぐうたら娘、食うと寝ると甘えるしかできないからな。


 それはともかく。

 そんなわけで僕は男だけど少しは料理ができる。


 トマト五個を平らげた後、僕はせっかくなので家庭菜園で収穫した野菜を使って料理を作ることにした。


 ちなみに収穫後、再び〈栽培を開始しますか?〉と言われたのだが、ひとまずやめておいた。

 そんなにたくさん食材があっても使い切れないし。


「ジャガイモ、ニンジン、玉ネギと言えば、シチューだよな」


 まず牛乳をベースにしてシチューを作ることにした。

 ついでに白菜も使おう。


 いつもは節約のため具が少ないけど、今日は豪快に使うことができる。

 ただし相変わらずお肉は少量だ。


 できあがったシチューを鍋から皿に取り分ける。

 先ほどトマトが美味しかったので期待しながら、ジャガイモをスプーンですくって口の中へ。


「~~~~っ!」


 う、旨い!

 ジャガイモの味が物凄く濃厚で、しかも甘い。


 美味しいのはジャガイモだけじゃなかった。

 ニンジンも玉ネギも白菜も、どれも今まで食べていた野菜とはまったくレベルが違う。


「意外と凄いんじゃないか、この【家庭菜園】?」


 これがあれば食費が抑えられるし、毎日、美味しいものを食べることができるだろう。


 ……それでもやっぱり僕は冒険に役立つギフトが欲しかったけれど。


 まぁ嘆いても仕方がない。

 今日はセナの冒険者としての初仕事。

 美味しい料理を作って、お祝いしてあげないと。







「お兄ちゃん、ただいまー」

「セナ、お帰り。どうだった?」

「魔物と戦ったよー」

「え? いきなり? だ、大丈夫だったのか?」

「ぜんっぜん、へーき! お姉ちゃんたちと一緒だったしね!」


 まさか初日から魔物と戦うとは思っておらず、心配になる僕だったけど、セナはあっけらかんと笑う。


「お兄ちゃん、心配し過ぎだよー。魔物と言ってもまだ弱いのだしー。ゴブリンとか」

「だけど、今まで剣を握ったこともなかっただろう?」

「うん。でも握ってみたら、なんかすっごく手に馴染んでさー、適当に振ってみたらお姉ちゃんたちにびっくりされちゃった。誰かに師事したことないかって」


 まったくの素人なのに、最初から普通に剣を使えたという。

 恐らくそれこそが【剣神の寵愛】の効果なのだろう。


「へぇ~……」


 羨ましい。

 何でセナの方なんだろう。

 もし僕がそのギフトを手にしていたら、幾らでも養ってやったっていうのに。


「お兄ちゃん?」

「いや、何でもない。それより夕食できているぞ。今日はシチューだ」

「わーい! あたしシチュー大好き!」


 セナは天真爛漫に喜び、椅子に座って「早く早くー」と急かす。

 よそうぐらい自分でやれと思ったが、今日は初めての冒険で疲れているだろうと思いなおす。


「はい、召し上がれ」

「うわー、美味しそう! いっただっき――うまぁぁぁっ!?」


〝いただきます〟を言い終える前にすでに一口目にいっていたセナは、大きく目を見開いて叫んだ。


「何これ!? 美味しい! ねぇ、何なのこれ!? めちゃくちゃ美味しくない!?」


 驚きまくる妹に、僕は思わずふふんと自慢げに笑う。


「いつものお兄ちゃんの良くも悪くもない普通のシチューと全然違うじゃん!」

「おいこら」


 さっきシチュー大好きって言ってなかったか?

 いつも喜んで食べてるのは嘘だったのか?


「だって、シチューは誰が作っても最低限の美味しさはあるから!」


 泣いていいかな?


「それより何このシチュー? 本当にお兄ちゃんが作ったの? ていうか、具材! そう、具材が美味しいんだよ! ジャガイモも、玉ネギも、ニンジンも! どこで買ったの!?」

「ふっふっふ、その秘密を教えてほしいか? 実はだな――」

「もぐもぐもぐもぐもぐ」

「聞けよ」

「今食べてるから後で!」


 それからセナは四回もお代わりした。


「げっぷー」


 妊婦みたいになったお腹をさすりながら遠慮なくゲップする妹を立ち上がらせ、僕は庭へと連れていく。


「ほえ? なんかお庭に畑ができてる?」

「そうだよ。ここで収穫したんだ。僕のギフト【家庭菜園】の力で」

「すごい! じゃあこれからは毎日、こんなに美味しいのを食べられるんだね!」


 セナは目をキラキラさせて言う。

 そのとき、彼女のポケットから何かが落ちたかと思うと、ころころと菜園の方へと転がっていった。


「なんだそれは? 石?」

「違うよ! 魔石だよ!」

「魔石って、確か、魔力が固まってできた石か」

「うん! ダンジョンだと結構たくさん落ちてるんだ! 大きなのだと高く売れるみたいなんだけど、ちっさいのはほとんど値がつかないの!」


 どうやらこれはその小さな魔石らしく、直径三センチぐらいしかなかった。


〈魔石を使用しますか?〉


 ん? またあの声が聞こえてきたぞ。


〈魔石を使用しますか?〉


 魔石を使用する? どういうことだ?

 初めて聞いた言葉だ。


 けど、魔石が菜園の上に転がったことと無関係とは思えない。


「なぁ、セナ。この魔石、貰ってもいいか?」

「いいけど? 何に使うの?」

「ちょっとな」


 妹に許可を取ったので、俺は先ほどの声に返答する。


〈魔石を使用しました〉


「わっ、魔石が消えちゃった!?」


―――――――――――

 ジオの家庭菜園

  レベル1 1/5

  菜園面積:50/50

  スキル:なし

―――――――――――


 レベルの下にあった0/5が、1/5になったぞ。

 つまりこれ、魔石を使うことで数値が上がっていくということか?

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