ビビらせたい幽霊っ娘、心霊好き男子に撮られる
さいりうむ
第1話 プロローグ
人生初のデートで墓地へ向かうカップルなどいない。そんな奴らがいるなら是非に教えて欲しいものだ。結婚は人生の墓場なんて言葉もあるが、その予行演習で本当に墓場に足を運ぶなんてあってたまるか。
「ここなら撮れそうなのだよ、心霊写真」
俺の隣を行く制服の女子、幽華はニヤリとする。猫のような瞳でこちらを覗き込む幽華にドキリとする。そんな俺を見てニヒヒと笑うとくるりと回ってピタッと止まる。動きに合わせて、折り目正しいスカートも広がっては戻る。肩まで伸びた艶やかな黒髪も躍動する。
「うん。イメージ通りのおどろおどろしさなのだよ。じゃあ、ナヲ君、手筈通りに幽華を撮ってほしいのだ」
「まあ、撮るって言ってもスマホのカメラで期待通りの物が撮れるかは分からんがな」
俺、寺田ナヲは苦笑しながらもカメラ機能を起動させる。…暗視モードにしないとな。俺達は近所の墓地を訪れていた。時刻は夜8時半。誰もいない。理由は心霊写真を撮るためだ。幽華は目を爛々と輝かせていた。
「何てったって幽華のこれからの幽霊人生が懸かっているからね。それじゃあ幽華はオバケモードに入っちゃうんだよ」
「…何度見ても慣れないな」
幽華の全身は向こう側が見える程度に半透明になっていた。もう驚くことは無いが慣れもしない。目の前にいる少女が幽霊なのだと改めて思い知らされる。
「ポーズはどうするんだ?」
「やっぱり佇む感じ?それとも幽華の可愛いフェイスだけ墓石の横からニョキっと出すとか?いっそのこと地面から幽華の可愛いフェイスだけ生やしてもいいけど」
体が消えて頭部のみに変化する幽華。そのまま浮遊して様々なポジションを試すもこちらに戻ってきた。
「やっぱりさー、可愛い幽華で心霊写真を撮るなら画面いっぱいに写った方がいいと思うんだよねー。ってことでさ、ここで撮ってほしいのだよ!」
んな幽霊がいるかっ!けれど満面の笑みでシャッター待ちをしている彼女が愛らしくて。
カシャッ。
「撮れたぞ。インパクトの塊みたいな写真だ」
「ぬお~!新しい!インテリジェンスに満ち満ちてるのだよ♪」
意味分かってないだろ、それ。欠片もねえよ。
「じゃあ、ナヲ君。もっともっとだよ!いっぱい幽華の写真や映像を撮ってね。そして幽華を成仏させてほしいのだ」
そうなのだ。何故、こんな奇妙なことに興じているかというと、全てはこの怖がらせる気ゼロのハイテンション娘(幽霊)を成仏させてやるためなのだ。…うん。俺もよく分からないんだけどね。でも、「撮影」することが大事らしい。
「ナヲ君、スマホのカメラ、内カメにして。オバケが後ろから襲ってくる~!みたいな写真も撮ろうよお」
顔だけの状態を解除して制服姿に戻った幽華。と言ってもまだ半透明。俺の背後に回ると抱き着いてきやがった。
「はい。ぎゅ~~!どうどう?霊にガッツリ取り憑かれてる写真の完成なのだ」
…いや、これさ、どう見てもイチャイチャしてるカップルの写真なんだよなあ…。幽華は確かに半透明なんだけどニコニコしながら顔も赤いし、少なくとも悪意や敵意は皆無だった。
「止めてくれ。恥ずかしい。それに、こんな愛嬌いっぱいの心霊写真じゃ意味無いだろ。ボツだ、ボツ」
「む~、ケチ。でもいいや。勝手にシャッター切ったからね」
何だと。スマホを見ると確かにツーショットの画像があった。
「ぷふっ。ナヲ君、目が半開きなのだよ。もう一回撮ってあげようか?」
全く…いつになったらまともに撮影出来るのやら。イルカのように軽やかに宙を泳ぐ幽華を見ていたら、考えても仕方が無い気がして撮影を再開することにしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます