第22話 返信と先祖


 新たにユリカの元へ2通手紙が届いた。


 送り主は1つは母親からで、便箋を買ったあとついでに書いた手紙の返信と近況を知らせる内容だった。新し便箋とシーリングワックスについても触れてあって、驚いたけど素敵と、良い買い物をしたようねと褒めてくれた。どんなことでも褒められると嬉しい。

 それに、親子だからか好みも似ているのかもしれない。


 もう1通はキリアンで、前回の返信のようだ。最初にもらった手紙とはまた異なり、全体が淡い水色で白の波紋にところどころ金の装飾のされたこれまた素敵なデザインだった。正直いくつも素敵な便箋を持っていて少し羨ましいと思う。

 前回は特に意識して見なかったが封蝋は梟ふくろうを象っていた。

 私が送った時と同様に、封筒に小さく"本人以外が開けることは出来ないのでご注意を"と警告がある。思わず ふふっと笑いがこぼれた。キリアンも同じシーリングワックスを持っていたみたいだ。

 また自分が本人なのだから爆発しないことは分かりつつも、まさか自分が開ける立場になるとは思ってもいなかったのと、警告が書いてあることで余計ドキドキした気持ちになる。

 ユリカは一呼吸置き、風魔法で封を開け中を見る。


 最初は驚いたものだが、やはりマナーに則り女性を褒めちぎる内容から手紙は始まっていた。どんどん読み進めていくと、あるところで目が止まる。

 『不躾なことを聞くようだが、もしやユリカはビーレンサイツ王国に縁ゆかりがあるのでは?君の使っていた印章が、かの国のものと類似しているように感じたんだ。』



 …はて、ビーレンサイツ王国なんてあっただろうか。

 この世に生を受けてこのかた聞いた記憶がない。



 それにユリカは幼い頃亡くなった自分の父親のことはよく母や近所に聞き回っていたが、ルーツなんて気にしたことが無く聞いたことも調べようとしたことすらなかった。

 なんだか気になって手紙を読んでいた途中だったにも関わらず、おもむろに席を立ち図書室へ向かう。縁があるかなんて言われたら、物凄く気になる。その欲求のまま足を動かし、気付かぬうちにユリカは急ぎ足になっていた。




 図書室に着いて、すぐ地理の本を探し広げた。この世界にはまだ世界地図というものは存在せず、よく見るのは自国を取り巻く周辺国や、頻繁に取引や流通を行っている少し遠くの国が端折って描かれているだけだ。聞いたこともない国が地図に載っている訳がなく……やはりなかった。



 「あれ、ユリカ?」


 「先輩!…って重そうですね、隣どうぞ。」


 「ありがとう、座らせてもらうね。」



 振り返ると、サリィ先輩が本を積み重ねた状態で声をかけてきた。あまりにも重そうなので広げていたものを片付けてスペースを作る。

 サリィ先輩は読書家なのだ。いつも寮で本を読んでいる姿を見かけるが、どうやら読書愛好会というサークルに所属しているらしい。そのこともあって博識で憧れる。



 「読書…ではなさそうね。何か調べもの?」


 「そうなんです。あの、先輩はビーレンサイツ王国って知っていますか?」


 「えぇ、あの国にはロマンチックな話がいくつもあって好きよ…あぁ、そんな最近の地図には載ってないわ。そうね、歴史書の方がすぐ見つかるんじゃないかしら。」



 どうやら最近の地図には載っていないらしい。自分ひとりではこんなにすぐ知り得なかった情報だ。有難いと思いつつも、先輩が席を立って本を探しに行ってくれる。そうして「この辺かしら」と手渡された歴史書を開くと、『現在はアルケダラ帝国の一部』と書かれていた。



 「今はない国だから聞いたことがなかったんだ…。」


 「この国は長く穏やかな王が治めていて、平和で素敵な国だったって読んだことがあるわ。ただとても卑怯な手を使った戦争に負けて以降、吸収合併を繰り返してたみたいよ。」



 卑怯な手によって平和が崩されただなんて、今まで知らなかったけれどもなんだか悲しい気持ちになってくる。そんな国に私の先祖と関係があるのだろうか。

 本を読み進めていくと、母に持たされた印章の紋様によく似てるが異なるマークが至る所で使われていることに気付いた。



 「あれ、この模様…」


 「これは王家の紋章よ。ここの王族は全員惨殺されて生き残りはいないみたいだけど、国民を愛し愛されたとても素敵な方々だったらしいわ。」


 ──惨殺…ってことは持ってる印章が似ているのは、別に王家には関係なさそうね。一瞬でも期待しちゃった私、馬鹿みたいじゃない。


 「ここの王族といえばね、何代前なのか知らないけど、ここパルモティア王国の王女が嫁入りしているのよ。なんでも王子が式典に参列するため来国した時に、お互い一目ぼれしてそのままとんとん拍子に婚約結婚に至ったらしいの。夢のような話よね…。」


 「まぁ、まるで物語みたいですね!」





 結局その後も調べてみたが、特に手がかりは見つからなかった。

 とはいえ頼りなのは印章と母からの話くらいだが。私の家名"ウィンスレット"はそう珍しい名前でもないのであてにならない。

 まぁ今回、サリィ先輩がロマンス好きなのがわかったから良しとしよう。うん、可愛いらしかった。


 寮に戻ると、自分の机に置いてきた読みかけの手紙をみつける。調べたい欲が勝ってすっかり忘れていた。

 一息おいて手紙を広げ、続きを読む。相変わらずキリアンは綺麗な文字だ。そう感じつつ最後まで目を通し終えると思ったその時、ゲッ…と声が漏れる。


 ユリカはもう一度、最後の一文に目を落とす。

 『近々、時間をもらえないだろうか。また君に会いたい。』

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