第52話 あの子と俺

と出発点の屋上に戻ってきた。


俺はもっともっと空の旅が出来ると思っていたから


「え?もう終わり・・・?」


って


思わず言ってしまった。


は振り向かずにゆっくりと歩いて


プリンを食べていた場所でペタンと座った。


やれやれ。


「・・・ほんと、振り回されっぱなしだな」


仕方ない。


俺はの前にあるコンビニの袋から


残り1個のプリンを取り出した。


フタをあけながら


「これ食べたら、もう1回飛んでみたいんだ。朝までまだ時間あるし、もう少し・・・」


に渡そうと、プリンを持った手を伸ばしたら


「うわぁっ!?」


カップを受け取るの両手が


真っ白に光っていた。


「え!?な、何?な、なんで!?」


思わず手を引っ込めた弾みで


後ろに視界が及んだ時


「え?・・・うそ・・・」


俺の青い翼も真っ白に光っていて


すうっと、消えていった。



その白く光る両手の表裏を交互に見ながら


ゆっくりと顔をあげて俺を見た。


「・・・やだな」


「え?」


そう言うとカラダ全体が真っ白に光って


足先や指先


カラダ全体の輪郭


そして翼が


ゆっくりと


はらはらと


小さな光の花びらが散っていくように


少しずつ消え始めていた。


「ど、どうして・・・ダメなの?・・・消えて・・・い、いなく、ならないよね?元いた場所にもど・・・戻るだけなんだよね?・・・また・・・夜・・・!夜になったら・・・会えるんだよね!?」



何も答えずに


優しい笑顔で俺を見ていた。


「ダメなの・・・?そ、そんな・・・まだ・・・まだ、消えないで・・・お願いだから・・・」


少しずつ


少しずつ


のカラダが


消えていく。


俺は


・・・


俺は


思わず



ぎゅっと抱きしめていた。


全部消えてしまわないうちに


全部無くしてしまわないうちに


ちゃんと


・・・


ちゃんと


伝えなきゃ。


「あ、ありがとう!きみ・・・きみのおかげで・・・わずかな時間だった・・・けど・・・ほんっとうに・・・楽しかった!シアワセだった!夢のようだった!・・・俺・・・俺は・・・ぜっっっっっ・・・たいに・・・今日のコト・・・きみのコト・・・ずっと・・・ずぅっっっっ・・・っと・・・わすれ・・・ない・・・忘れたりしないから・・・!!・・・だから・・・だから・・・」


涙が


・・・


涙が


止まらない。


ぎゅっと抱きしめていたハズの腕の中が


少しずつ感触がなくなっていく


存在がなくなっていくのがわかる。


「あぁ・・・」


俺は泣きながら


待ってくれ


待ってくれ、と


何度も何度も祈りながら


残っている感触を


必死で逃すまいとしていた。


頬の感触


大きな青い翼の羽根の感触


止まることなく散っていく


大量の光の粒の中で


俺は泣きながら


ひたすら


ただひたすらに


祈り続けていた。


「・・・そら・・・から・・・の・・・お・・・へん・・・じ・・・」


「え・・・?」



俺の耳元で


聞き取れるかどうかの


かすかな声で


そっとつぶやいた。


そして


頬の感触もなくなって


大きな青い翼の羽根の感触もなくなって


止まることなく散っていく


大量の光の粒の中で



全部


全部


光の粒になって


月明りのキレイな空の下で


静かに


消えていった。

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