第14話 幸運の幽霊?と俺

「最近、からファンレター、こなくなったね」


月に二回くらいは届いていた、いつも丁寧なから


ここしばらく、手紙が来なくなっていた。


「推し変、されちゃいましたかね」


と、


つい笑って、軽い感じで受け流してしまった。



丁寧すぎて、ちょっと堅苦しいカンジもあったけど


嬉しいコトバをたくさんもらえたり


時には、泣きそうになるくらいの感動をくれたり


たまに、読み返してみたりして


元気をもらっていたのは確か。


(ちょっと、楽しみにしてたんだけどな)


ファンのキモチも、移ろいやすいよな。


        ☆


「よぉー。久しぶりー!」


(相変わらず、いつも楽しそうだな)


「あれから、どうよ?」


「どうよ、って。なにが?」


「おまっ・・・!そらちゃんだよ、黄色い幽霊!」


(そらちゃん、って、まだ呼んでんのかよ)


「黄色い幽霊って、幽霊じゃなくて、ストーカーの女の子!

 だったろ?」


「・・・おまえ、、大丈夫なの・・・?」


「な、なんだよ、キモチ悪いな・・・意味わかんないんだけど」


(こいつがマジ話とか、ありえないんだけど)


        ☆


「そうそう、だよ!」


前にふたりでに会って、俺が先に帰ったあと


駅まで送るつもりで、少しの間、一緒に歩いていたらしい。


「俺の少し後ろを、ずっとついて歩いてたんだよ。

 あ、もちろん、しゃべってたのは、ほとんど俺なんだけどねー」


(ああ、だいたい想像がつくよ)


「なーんか、うわの空っていうか、ずっとキョロキョロしてて、

 上ばっか見てるんだよねー」


「都会の高いビルばっかの街が、珍しいんじゃないの?」


(って、田舎から出てきたって決めつけてるし)


「で、大通りにヒトが多くなってきたからさ、ちょっと道をそれてさ。

 そっから曲がって、ココをまっすぐ歩いてたんだけど・・・」


「・・・けど、な、なんだよ・・・」


(そうやって、ちょっとをとるの、やめてくれよ)


「なんか、ぶわっ!って、後ろから風にまくられて、思わず振り返ったんだよ。

 ・・・そしたら・・・」


「・・・そしたら・・・?」


(・・・そ、そしたら・・・??)


「・・・いなくなってた・・・」


「・・・マジ・・・?」


「マジ!『本気と書いて読み方はマジ!』」


(うざっ・・・)


「あれ?あれ??と思って、名前呼んだり、来た道を戻ったりしてさ。

 その時はココ、人通りもなくて、すぐ見つけられると思ったんだけど、

 いなくてさー。・・・ね?ヤバくない・・・?」


(だから、なんで楽しそうなんだよ)


「お、大通りからこっちに入った時、実はついて来てなかったんじゃないの?」


「いーや、断言する!その時は!だって、俺、手ぇ引いてたもん」


(おいおい・・・)


「どっちかというと、お前のその無防備な行動の方が、ヤバいと思うんだけど」


「え?なんで?暗い夜道は危ないじゃん。」


(だから、人気声優、つつしめよ)


「あ、でも手の感触はあったなー。・・・やっぱ、人間だったのかなぁ?」


「はぁ・・・、お前のコト、ヤバいって思って逃げたんじゃないの?」


「いーや、断言する!それは!」


(なに、その自信)


「だって、ほんの一瞬だよ?俺って話に夢中になると、身振り手振り入っちゃうでしょ?

 手を離して前向いたまま、そんな感じで話してたのって、ホント、ちょっとのあいだだから。

 あの一瞬で走って逃げてても、一本道だし、振り返ったら背中、すぐ追えてると思うよ」

 

(・・・なんだよ、それ)


「あんなにいつも見かけるって言ってたのに、ホントにあれから全然見てないの?」


「う、うん。全然、見かけなくなった」


(安心してたけど、コレはコレで、なんか気になるな)


「うーん、また出てきてくれないかなぁ。あの不思議な感じ、なーんか気になるんだよねー。

 いろいろ話してみたかったなー。あ、とりあえずこの件は、今度のトークネタだけどね」


そう言いながら、楽しそうに手帳をめくっていた。


(さすがというか、こういうトコロか、俺とおまえとの差って)


「おまえって、ホントに、ヒトに対していつも興味津々なんだな」


(そこも、ホント、俺とは真逆だわ)


「まぁね、だって大人になってもこの世界しか知らないからさー

 付き合いも限られていたり、たぶんフツーのヒトちゃんとした社会人よりも

 いろんな経験とか、出来るコトとか、きっと全然少なかったりするじゃん?

 想像だけでの役作りにも限界があるし、いろんなヒトの人生とか、仕事や経験、

 考え方とか、知っとくと役に立つし。ま、俺が、なにより聞いてて楽しいから

 なんだけどな。ははは。」


(・・・ホント、スゴイな、おまえは)



「ん?なんか落ちたよ」


「え?あー、それそれ。そらちゃん探して、またココに戻って来た時に拾ったんだよ。

 作り物だけど、なんかキレイじゃん?そらちゃんとの記念、ってコトにした!」


(なんで、ドヤ顔なんだよ)


「あの不思議な感じだと、もしかしたらだったかもしれないじゃん?

 だったら、今度あるでっかいオーディション、絶対合格させて!お願い!!

 って、このにお願いしてみた。ははは。」


「いや、って、そんなのいねーよ。てか、なんだよ、って。

 たまたま落ちてたモノだし、違うだろ」


「いいのいいの、信じるモノはわらにもすがる!てね。

 おー、なんだかワクワクして、いけそうな気がしてきたー!うしゃー!」


「なんの格言だよ、それ。まぁ、頑張ってこいよ。じゃぁ、またな」



手帳から、ひらひらとゆっくり落ちてきたのは


鮮やかな1枚の青い羽根だった。


(幸運の幽霊、か・・・)


そういうモノにも、すがりたくはなるけどな、実際。



あ、



そういえば、もともとかれて(つきまとわれて)たのって


俺じゃね?


それなのに


「結局、俺は自ら、追い払ったようなもんだ」


(やっぱり、こういうトコロか、俺とあいつとの差って)



「・・・いやいや、だから、違うって」



幸運の幽霊なんて


いない。


いない。



そんなの


いやしない。




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