第11話 黄色いストーカーと俺

「お疲れっしたー!」


「・・・はぁ」


「んな!?なになに?ここんとこ元気そうな感じだったのに、一転!?」


気心知れた声優仲間との、楽しいラジオ収録を終えて


今日の仕事は終了。


なのに、


帰る足が重い。


「この前言ってたファンレターのぬし様が、いよいよ重くなってきたとか?」


「いや、それはまだ大丈夫なんだけどさ・・・」


(まだ大丈夫って、失礼だろ、おい)


「ストーカー、的な?まだ、確定じゃないけど・・・」


「げっ!!それ、ファンレターのぬし様がっ!?」


「いやいや、若い子だし、ぜんぜんちがうちがう」


(って、やっぱり失礼だろ、おい)


「最近、行く先々でよく見かけるんだよ。


 最初は勘違いかなって思ってたんだけど


 いつも同じ格好してるから、妙に気になって・・・」


「いつも同じ格好って、毎日?」


「毎日、じゃあないけど、見つけるたびに同じ格好なんだよね。


 最初は道路の向こう側で、じっと見てる感じだったんだけど


 この前は、なんか感じて振り返ったらすぐ後ろにいたりして。


 怖くなって、思わず走って逃げた!ヤバくない!?」


「・・・それ、幽霊とかじゃないよね・・・?」


「・・・ストーカーとどっちがマシだと思うよ・・・!?」


        ☆


決まって夜に見かけるようになったは、


鮮やかな黄色のざっくりとしたパーカージャケットを着ていて


黒の短パンに黒いレギンス、がっちりしたハイカットシューズで


もしザックを背負っていたら、山ガールのような格好だな、と思った。


にしても、


そんな恰好で、夜の東京のど真ん中に出没していたら


いやでも目立つ!・・・とは思うのだが


誰も気にしている様子はない。


(それって、見えていないってことか・・・?)


いや、


(俺も普段はそうだけど)


道行くヒトは、他人に興味なんてこれっぽっちもないし


(よっぽどの有名人じゃない限りはね)


多少、個性的な恰好ヘンな恰好で街中をうろついていたとしても


よっぽどのがない限りは(きっと)見向きもされない。



「んじゃ、幽霊かストーカーか、確かめてみるか!」


「って、いやいや!危ないって!事務所にも相談してるからいいよ!」


「オトコがなんだしさ。ちゃんと距離とって話かけて、


 ヤバかったら速攻!走って逃げる!で、楽勝じゃね?」


(楽勝って、なんの勝負だよ。てか、なんでそんなに楽しそうなんだよ)


        ☆


22時を回っているとはいえ、まだまだ人通りは多い。


「あ・・・」


20メートル位先に、建物に寄りかかって立っている黄色いパーカーがいた。


「待ち伏せなのかよ・・・」


思わず顔がゆがんだ。


「んー。俺にも見えてるってコトは、幽霊じゃない、ってことだ。な?」



でも



けっして、ストーカーではなくて


むしろ、幽霊であってくれ・・・


と、


祈っていた。



ゆっくりと近づいていった。


「ねぇねぇ、よく見かけてるんだけど、こっちのお兄さんに何か用なのかな?」


(お前、最近テレビにも出ている人気声優だろ?そのお気軽さで大丈夫か?)


きっとゆがんだ顔のままであろう俺を、その子は黙ってじっと見ている。


「で、出待ちとか、待ち伏せとか、前みたいに後ろついて来たりとか


 そ、そういうコトされたりして、ちょっと困ってる、っていうか・・・」


(はっきり言えてない、なんだよ、俺)


「ねぇ、きっとこのお兄さんのすっごいファンなんだよねー。だから、困らせちゃダメだぞー」


(お前、軽いな、人気声優のクセに。てか、なんでそんなに楽しそうなんだよ)


「・・・」


「え?」


(聞こえない)


「・・・いつもみつけてしまうから」


(いつも見つけてしまう、って、何?)


「へー、なんか、おもしろい子だねー。どっから来たの?」


(いや、ヘンだろ!普通に。だから、なんでそんなに楽しそうなんだよ)


「・・・にし」


「西?横浜?うーん、関西とか?」


「・・・にしのそら、そのずっとさきのまち」


(なんか、やっぱりヤバくない?この子)


「えーっと、ずうっと西にある遠くの街から来た、ってコトでいいんだよね?


 名前は?未成年・・・じゃないよね?」


(それは物理的にもヤバいと思う)


「・・・そらx」


(そら?)


「・・・そらり」


(そら、り?なんで、り??)


「うーん、そらりちゃんかぁ。変わった名前だねー。そらちゃんでいい?」


(いやいや、もうこれっきりだから、呼び名はどうでもいいだろ)


「と、とにかく!ストーカーみたいな行為は、もうやめてもらいたくて・・・


 ど、どうか、お、お願いします!」


(なんでお願いしてるんだ、俺は)


「まぁまぁ。というワケだから、大好きなお兄さんのお願い、聞いてあげてほしいんだ。


 お礼に、ジュースおごるからさ。そこのコンビニだけど、いいよね?」


(こいつ、本当にコミュりょく高いのな。さわやかで。さすが人気声優)


「・・・まあいいか」


あっさりとした返事だったけど、引き上げてくれそうで


ひとまず、ほっとした。


「じ、じゃあ、俺はココで。助かったよ、またな!」


「おぅ!後ろに気を付けろよ!ははは。」


「う、うるせぇ!」


別れ際に、ちらっとを見た。


見間違いか・・・?


すごく優しい笑顔で、俺を見ていた。


(でも、もうバイバイ、な)










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