一ヶ月前にフッた彼女と義理の兄妹になった件について

MASANBO

第一章

新しい家族は先日フッたばかりの彼女であった

「彼女たちは新しい家族だ」

「よ。よろしくお願いします」

頭が真っ白になった。

俺、相木聡は人生で初めて息をするのを忘れてしまった。


急な話で脳の処理ができなくなったからというのもあるかもしれない。

しかしそれだけではない。

いやそれだけでも同じ反応をしたかもしれないが、パニックになりながら同時に後ろめたいというのか、気まずいという感情が出てくるわけがない。

そのような感情が生まれるのは、これから家族になる人が、つい最近自分がフッた相手だからだろう。


俺はこれからの生活を考えると、なんとも言えない気分になった。


――――――


沈黙が流れる。俺はその沈黙がひどくいこごちが悪い。

いつもは美味しく感じるコーヒーが一口飲んだ後からまるで進まない。飲む気にとてもなれないのだ。

だがそれは俺だけなのだろう。隣いる彼女は、微笑みながら俺が入れたコーヒーを飲む。

コーヒーの暖かさが体に染み渡り、はぁ。とその快感を彼女はゆったりと楽しんでいた。

俺はとてもそれができそうになかった。なぜなのだろう?俺と彼女は告白され、それを断った側と断られた側。それから何も話してもいない。

それなのになぜこうも落ち着いていられるのだろうか。


「美味しい。コーヒー入れいるの上手だね」

「大したことない。豆を引いたり、せず市販のものを使って適当に入れただけだよ」


お世辞なのだろう。そんなことは分かっているが、しかし彼女の顔を見るとそうじゃないような気がするのは不思議だ。


「まさか好きな人と兄妹になるなんて。人生とは不思議ね」

「確率を計算したらとんでもなさそうだ。今なら宝くじを買えば働かずに生きていけるかもしれない」

「そのための運を使い切ってしまったとも言えるかもね」

「まさか。それはないよ」


運というのは、偶然自分にとって良いことが起こるということだと聡は認識していた。ならば今の現状はそれに当てはまらない。


「……ふ〜ん。それじゃあ。当たるかも。宝くじ」

「君もな」

「私は、当たらないよ絶対」

「そうなのか?」

「うん」


それからまた沈黙が訪れた。

しかし少し、本当に少しだが会話ができたことで、聡もいくばくか余裕が生まれてきた。だから聡は、緩くなり香りも落ちた、微妙なコーヒーを一気に飲み干し、彼女から告白され、それをフッた一ヶ月前のことを思い出した。






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