第2話 彼氏契約②
今度は壁の方を向き、彼女と交わした契約について考える。
そもそも、契約彼氏って何なんだろう。文字通り契約を交わしてたら、彼女の彼氏になるということだが。契約で彼氏になったら、本当の彼氏とは言えないんじゃないか。いや、契約でも彼氏になったんだから、あくまで自分は鈴奈の彼氏なんじゃないか。とか、混乱して考えがまとまらない。
「ねえ、何考えてるの?」
「うん、契約彼氏の事」
「だってもう契約したよ」
「契約したから、俺は鈴奈の彼氏ってこと?」
「そうよ。それにね、契約書があるし、契約の印であるキスも交わしたでしょ」
「まあ、結婚式では誓いのキスしたりするけどね」
「もう一回すればいい?」
「そういう問題じゃあ……」
「ねえ、彼氏になるのは、本当は嫌なの? なる気がないの?」
「ある、ある、ある、ある、ないなんてことは、断じてない~~~~!」
鈴奈は壁際にいる俺をさらに追い詰めてくる。
「かわいいじゃない、後ろ向いて照れちゃって」
「そうかな」
「恥ずかしがらなくてもいいのに。だって、うれしいでしょ?」
「うれしい、うれしいけどさ」
今度は、俺の頬に指を立てた。なんだよ、突っつこうとしているのか。俺は彼女の指をぎゅっとつかむ。
「あら、何よ!」
「べつに……指をつかんでみた」
「私の指……かわいいでしょ?」
「まあ……かわいい」
俺のごつごつした骨ばった指に比べると、彼女の指は細くて柔らかくてかわいい。
だけどな、どうして俺が選ばれたんだろう。そこが一番の疑問だ。いや、自分では気が付かなかっただけで、かなりイケてるんじゃないのか。
そうだ! そういうことだ! 自信を持て礼人!
再び彼女と向き合う。彼女からからかってるのかと思ったけど、真剣そのものだ。怒ってるようにも見える。そうだ。人生賭けみたいなもんだ。彼女の誘いに乗って賭けてみるのも面白い。明日からの生活がバラ色になるかもしれないぞ。
「決めたよ、今日から鈴奈の彼氏だから、よろしく」
「そう来なくちゃね」
「お手柔らかに」
「まったく、頼りにしてるからね」
俺が手を差し出すと彼女はぎゅっと握った。彼女はにんまり笑う。さっきのキスは本物だったんだ……。
あれ、何やら外が騒がしくなってきた。がやがやと声が聞こえる。誰かが話しながら廊下を歩いている。
慌てて俺たちは距離をとる。
じっとしていると、声は通り過ぎて行った。間一髪だった。そのまま誰かが入ってきたら、二人で何を話していたんだと詮索されるだろう。
彼女はきゅっとくちもとを結びいった。
「じゃあ、契約彼氏の事よろしくね」
「ああ、わかってる。契約書も持ってるからね」
「そう、なくさないで。えっと、それから、彼氏なんだからわがまま言っても聞いてよね」
「ええっ、それは……内容にもよるけど」
「もう、そういう時はいいよって言った方が受けがいいよ」
「ああ、いいよ」
「合格!」
わがままも聞いてあげるなんて、どこまで本気なんだ。
合格がもらえたので部屋を出て、教室へ戻る。誰もいないことを確かめてから、しカバンの中から彼氏契約書を取り出してみる。
彼氏になればいいんだろう。わがままを聞いてあげたり、デートをしたり、お安い御用だ。それで、マドンナの彼氏として一目置かれる存在になれる。
見直していると、ある一点で目が留まった。
えっ、えっ、えっ、なんだってええ~~! そんなああああ~~~!
知らなかった!
契約期間がっ、一か月と書かれている。短いっ。たったの一か月。それで、ふむ、ふむ。
私のお願いはすべて聞かなければならない、ってそんなことできるか! どんなお願いをされるんだ! 絶対不可能なお願いだったら、どうすればいいんだ。バンジージャンプをしろだとか、テストで百点を取れだとか、無理難題を吹っ掛けられたら……。
うわっ、この契約吉と出るのか凶と出るのか……わかったもんじゃない。
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