学園のアイドルに呼び出され契約彼氏にさせられた件
東雲まいか
第1話 彼氏契約①
ここは生徒会室……
目の前にいるのは、学園のアイドル、男子生徒憧れの的である真行寺鈴奈。小柄ながら、ふっくらと膨らんだ胸を包み込むブラジャーのラインがブラウス越しに見える。
近い~~~っ! こんなに近くで、彼女が見られるなんて、ままままぶしいいいい~~~~っ!
俺は突然彼女に呼び出され、狭い小部屋にちょこんと座っている。どうして呼び出されたのかはわからないし、普段彼女との接点はほとんどない。近くにいるが、遠い世界の人だと思っていた、ついさっきまでは。
ぱっちりした目を、さらにぱっちりと見開いてこちらを見た。
「突然呼び出しちゃって、おどろいちゃった?」
「まあね。生徒会の用でもあるの?」
「そういう用じゃないんだ、今日は」
「じゃあ、何かな?」
「それはね……」
再びこちらをちらちらとみている。おもむろにかばんを開け、中から書類を取り出し机の上に置いた。傍らには、ボールペンが転がっている。
『恋愛契約書』
「これ」
なんだこれは?
鈴奈は両肘を自分の腕で抱えた。膨らんだ胸が、中央部分に引き寄せられ、谷間が深くなったっ。ブラウスのボタンの合間から、胸元が見える!
肘に置いた手を、こちらへ伸ばしてきた。あろうことか俺の手をぎゅっと握った。
えっと、これはどういうことか? 何をしようっていうのか?
柔らか~い指の感触が俺の手を優しく包む。包み込んだ手にぎゅっとボールペンを握らせた。
「ねえ、これにサインして」
「俺と、恋愛するっていうこと?」
「まあ、そういうことかな」
「……で、契約するの?」
「そうよ」
長い髪を揺らしながら、小首をかしげて考えるしぐさをする。そんなポーズでこちらをじっと睨む。
「名前を書けばいいの?」
「うん、それだけでいいの。それだけで、今日から礼人君は私の契約彼氏になるの」
「へえ、契約彼氏? そんなのが、生徒会の規約にあるのかあ」
「そんなものあるわけないでしょ!」
「だよな」
「これは二人だけの契約」
「見たことがないし、聞いたこともないな」
「そりゃそうよ」
まだこちらをにらんで、返答を迫る。
「いや?」
「いや、いや、いや、いや、いや、そうじゃないっ。いやじゃないんだけど!」
「それじゃあ、契約成立ねっ」
俺は署名欄に自分の名前を書く。一文字礼人、とボールペンで丁寧に書き彼女に渡した。こうやって、学園のアイドルと二人きりになり、無理やり何かに契約させられてしまうやつもいるんだろうな、なんてことを考える。
「これで成立よ。成立した証をみせるね」
「そんなものもあるのか」
「まあね、動いちゃだめよ」
「ああ」
俺は言われたとおりに、じっとしている。鈴奈は俺の手を再び握る。今度はボールペンはない。彼女俺の事が今まで好きだったのかな。それで、こんな形をとって愛の告白をしてるのか! 聞いてみたいが、勇気が出ない。もう、こちらは契約しただけで意味は……不明だ。
「契約した証に、何をするの?」
「ちょっと動かないで」
座っている俺の目の前に、彼女が迫ってくる。顔が目の前に来た。さらに接近して、この体制まずいんじゃっ!
口元が俺のほほに触れた。ファーストキス! こんなあっさりとされた!
初めてだった。
俺から離れると、にっこり笑った。
柔らかかった。ような気がした。温かかった、ような気もした。
あっという間の出来事だった。
「立って……」
「は、は、は、はい」
うまく言葉が出ない。
そのまま立ち上がって、次の彼女の行動を待つ。
彼女は、俺の前に立ちふさがった。右手を差し出し。
「ああ、握手するの?」
「契約成立の証、もう一つ」
ぎゅっと手を握る。鈴奈の顔をじっと見つめると、覚悟が見えた。真剣そのものだ。遊びなんかじゃない、と言っている。
契約彼氏になって、これからどうなるのだろう。
「じゃ、契約成立したからいいよね」
「う、うん」
俺はあっけにとられた。一方的に契約させられた。これから俺は彼女の彼氏。だけど、彼氏がどんな存在なのか本当のところはよくわからないでいる! 彼女の本音も。だが、すごいことだ。学校中の憧れの的、真行寺鈴奈にキスされて、彼氏になることを命じられたんだから!
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