幻想小説短編集

小織 舞

第1話 わたしの秘密は床下にある

 美しい女だった。

 簡素な衣を身にまとい、長い亜麻色の髪を風に揺らしていた。


 シロツメクサの花冠を戴き、蠱惑的こわくてきにわたしに笑いかける。

 

 白樺の林。

 春の午後。


 裸足で緑踏む女がいた。


 手招きすれば笑って逃げた。


 追いかける。

 追いかける。


 ついに腕に捕らえれば、女はわたしを引っ張り、共に野草の褥に倒れこんだ。


 嬉しそうにわたしに口づける女。

 この女は妖精ニンフだろう。

 では、この口づけは祝福か、呪いか。


 わたしは陽の光の下に彼女を暴き立てた。

 円やかな乳房とくびれた腰、へその下の茂みは淡く、閉じられた脚によって秘密を守っている。


 女はわたしの手をその小ぶりな果実へと導いた。

 

 妖精ニンフは人間との間に子どもをもうけるために里へ下りてくると言う。

 交わりが終わればそのまま二度と戻ってこない。


 そうはいくものか。

 

 わたしは妖精ニンフの首を締め上げた。

 苦悶の声がかすかに聞こえ、ぱたりと白い腕が落ちた。


 恨めしげな双眼がわたしを見上げる。


 ああ、


 ああ、この女も違ったか。


 わたしは今日も妖精ニンフを探す。

 わたしの秘密は床下に葬った。

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