降り止んだ雨

 僕は、差し込む朝日に瞼を刺され、はっと目を覚ました。その衝撃で、僕は自分の横に置いてあった睡眠薬の瓶を倒してしまった。その痛みで、目は覚ましたものの、気を失っていたときのように、僕はここでなにをしていたのか、すぐには思い出すことができなかった。しかし、意識が戻ってくるにつれ、自分は、もう死んでしまっているはずの人間だということに気がついた。だとすれば、ここはどこだ。


 ・・・。


 しかし、僕はどうやら生きているようだった。そのことは、ちょうどいいタイミングで鳴った、空腹を告げるサインが教えてくれた。やはりこんな時でも、空腹はその欲望を止めることを知らないようだ。

 空は晴れていた。この様子から見ると、僕はどうやら死にきれなかったらしい。雨は途中で降り止んで、僕の体を水に沈めるまでには至らなかったのだ。昨日の雨脚の強さからは到底考えられないが、現実がこうなってしまっているのだから、受け入れる他にない。


 しかし、僕はこの時、重大な問題を見落としていることに気が付いた。そのことに気が付くと、僕は露骨に心臓の鼓動が早くなるのを感じ、今この状況が、非常に危ういものであることに気づかされた。


 ――― あの女子学生はどこだ?


 朝になって、ここに置いてあった薬が睡眠薬だと彼女が知れば、いくら鈍感な彼女でも、僕が自殺をしようとしたことに気づく。そうだとすれば、彼女は、周りの誰かに助けを、いや、既に警察へ通報しに行ったかもしれない。それが本当なら、ここにいては危険だ。

 そう思い立ち上がろうとした瞬間、見覚えのある小さな長方形の黄色い画用紙が、ひらひらと宙を舞い、地面に留まった。僕はそれをなんの気なしに拾い上げると、掠れたインクの上に、新たな黒い文字が刻まれているのを見つけた。


 

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