　―――　これで、僕はもう生きられない。

　結局雨が降り止むことは、いや、彦星と織姫も、僕と君も、泣き止むことはできなかった。そして伝説のように、二人が再開することもなかった。でも、最後に一度くらい、会いたかったな。もう、後悔なんてないって、そう思っていたけど、いざ死ぬことが確実になると、最後の一瞬くらい、もう一度その顔を、いや、声だけでもいい、声だけでも聞くことができたらと、そう思ってしまうみたいだ。それだけで、僕の一生は明るいものになっただろうに、やはり、世界は残酷だ。そんな一瞬すらも与えてくれないなんて。いつぞやの君も、僕と同じようなことを思ってくれていたのかな、そうだと嬉しいな、本当に…。

　　　　　・・・いや、待てよ。

だとすれば、君の願いは、その時のために。

　それから十五分ほど経っただろうか。僕は睡眠薬の服用後、すぐに意識が遠のき始めていたが、この頃には既に、ほぼ眠っている状態だった。しかし、最後に彼女が僕に、ご病気、治るといいですね、と、優しく声をかけてくれた気がしたから、僕は最後に、掠れた声で、ありがとう、と口にした。

　手に握られていた黒い文字が、倒れるように地面に転がった。そこは、湿気のせいか少し濡れていて、黒い文字は滲み、最終的には指で拭われて、消えてしまった。