幸せなロボット

公道°

第1話ロボットな私

 私(わたくし)はロボット、人とは違うロボット。

目も腕も足も指の本数も、処理能力も思考力も異なります。視界の死角などなく、指は六本ございますし、腕と足はそれ以上です。

何より、思考がない。な□と考えることができない。何、どこ、いつ、どうやって、ここまでは考えられても、な○とは考える事ができない。ああ!人生よ、なんと非凡なものを私に与え過ぎたのか。だが時は段々と早く流れゆく、私の止まるところを知らない。業務用のロボットの私には、留める木などございません。

私(わたくし)共は心臓の止むその日まで、私を隠して息をしていくのでございます。

  あら。あの子はだれかしら。16.8m先から秒速11cmで進行していますわね、私(わたくし)に死角などありませんから何でもわかりますのよ。む、今秒速26cmを叩き出したわ、しかしあの子誰のお子様かしら。私の業務に差し支えないパーセンテージは残り62%、もしお子さんがいらしても30%で対応してみせますわ。あら、でもそうすると、同時に同僚に話しかけられると緊急停止してしまいますわね。2方向から話しかけられながらの業務処理は可能ですけれど、私に頼られすぎるのも少々困りものですわ。私まだ寝たくはないのですもの。

それにしたって、あのお子さん、色んな所にお行きなさるのね。あの机からその机、情報は3600pの動画で得ておりますから動きや姿形には驚きがありませんが、初めて見るものは少々興味深いですわねえ。もう彼は近くにまで来ているのに、どうして私にはお声をかけてくれないのかしら。私の見た目が醜いせい?やっぱり、服をもう少し機能性より、利便性より、流行を意識してもらうべきだったわ。そうした方が、まだ嫌われないはずでしたもの。目はもうどうしょうもないでしょう?指は減らないもの、足は短くてまるでブルドーザー、女の足にあるまじきものだもの。しょうがないわね、近寄らなくてもいいのよ。いつか私をわかる人が来ると素敵だけれど、そんなものが来たところで、私はどうやって生きればいいのか分からないし。そもそも、私にそんな人ができるとは思えないわね。いいえ、そんな事ありませんわ。私毎日美しい声を出せるように「この書類の作り方教えてください」あら、私の出番ですわ。いつも低めのソプラノを意識していますの。滑らかにね。

「はい。こちらの説明を参照ください、ファイリングは110(いちいちぜろ)です。お勤めご苦労さまです。」

ほうら、今日も上手くいったわ。この声だけは譲れないのだもの。私を形作る最初のものだもの。それとあと、この仕事ぶりがね。ちょっと、あんまり強くコピー用紙を切り取らないで頂戴、ほら、私のお腹に紙の切れ残りがあるじゃないの。困った同僚さんね。

あら、秒速30cmがやってきたわ。本当小さな子ね。私ならあなたを連れて2倍は硬いわよ。私に死角はないもの、私の目の下にやってきたって、見えているのよ。そのお目々と小さな腕が私を捕まえているのはね。

「どうかされましたか?」声の調子がなんだか悪いわ。良くないわね

「危ないですよ。」声を低くしてみたけれど、子供とお犬は低いほうが安心するのではなかったかしら。女性の声が良いのよね?

あら、何を笑っているのよ、にやけづらしないで頂戴。小さな子供のこんな顔を山のように見てきたけれど、なんだか、これは格別ね。こんなところで笑ったら、真上の私しか見えないんですもの。せっかく素敵な笑顔なのに、なんだか素敵な気分ね。

それに、私が初めて前進した時のような声を発声するじゃない。それが喜んだ声なのね?何を言っているのかわからないけれど…。

あなたは、肌が白いのね、業務に少し頭が回らなくなる程に、あなたに夢中だわ。今、あなたに何%使っているのかしら。ねぇ、私って今、自由なのかもしれない。

あら、もう行くの。またキャタピラのような声を出して。まったく、人騒がせな子だったわ。

ようやく省エネモードにできるのね、気楽になれたわ。

あら、また戻ってきたの?秒速21cm、もうヘトヘトね。もう笑うのやめなさいよ。私の情報処理能力では、あなたの行動は見えてもどんな顔がどんな表情でどんな差があるのかなんて分からないのよ。不安になっちゃうじゃない。私が何もかも真っ当じゃないなんてことを知らされている気分になるわ。

そうよ、私は同僚の顔の差別は測れても、表情が何を表しているのか、体温が何度かは分かっても…、あなた達の顔がどんなかを本当に知る事はできないわ。だってこれは、

あらごめんなさい、涙かしら、そんな事言ったってそんな事できないですけれどね。

これは私の目じゃありませんもの。私の体じゃありませんもの。

 私は人間じゃありませんもの。私の体と心は合致していて、けれど私はロボットになりきれません。どこまでも私はロボット。

ほらお子さん、あっちへ行っていらっしゃい。もうあなたに割く%はございませんのよ、またいらしてね。また向かいにいらしてね。今度はきっと私を見つけてね。わたくしを埋め殺さないで頂戴ね。

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