計画:乙女ゲーム【全3話】

華洛

前編


「フレミア・アーケストラ!! お前との婚約をこの場で破棄する!!!!」


 ヴアレジナル王国、王都ライデムにある東京ドームの1.5倍ほどの広さを誇る会場で開かれている夜会で、第一王子のレグド・カーティナルは、高々に宣言した。


「レグド様……。お考え直し下さい。今なら、今ならまだ冗談で済みます」

「冗談ではない。フレミス。もう一度言う。お前との婚約は、今この瞬間に破棄だッ」

「――レグド様っ。なぜ、なぜ、私との婚約を破棄されるのですか」


 フレミアはレグドに縋るように問いかけた。

 その姿を忌々しそうな目で見たレグドは言う。


「何故だと? お前がミリトリアにした数々の仕打ちに覚えが無いというつもりか」

「ミリトリア様……。殿下が親しくされている男爵令嬢ですね」

「そうだ。私と彼女の仲を嫉妬したお前が、ミリトリアに対して行った数々の行為は、あまりに卑劣で卑怯極まりなく許しがたい。そんなお前は国母としての資格無し。故にお前との婚約を破棄とするッ」


 レグドの横には小動物を思わせる雰囲気をしたミリトリア・スマスカシ令嬢の姿があった。

 公爵家令嬢のフレミアを怖がっているのか、顔には怯えが見える。


「レグド様。私――」

「ミリトリア。今まで心細い思いをさせてすまなかった。だが、それも今日で終わる」

「いえ。いえ。大丈夫ですっ」


 優しく微笑みかけ肩を抱くレグドに対して、感極まり涙を流すミリトリア。


「レグド様。私はミリトリア様に対して、何もしておりません。信じて下さいッ」

「黙れ! お前がやった行為に対する数々の証言もあがってきているのだぞ。俺が許す。証言をせよ」


 レグドの言葉に反応して数名が一歩前へ進み出た。

 始めに証言したのはキース・シーラカ。

 王都守護騎士隊隊長の息子で、剣の腕は同年代と比べて頭1つ飛び抜けている。


「俺は見たぞ。お前がミリトリアに対して暴言を吐き、ミリアリアが泣くところをな」

「あれはッ。ミリトリア様の学園でのマナーがなって無くて注意してただけです」

「嘘をつけ。ミリトリアはお前から酷い侮辱を受けたと言っていたぞ」


 次に出てきたのはグラム・ファイム。

 魔術師で潜在魔力はかなり高く。四大属性を自在に操り、将来は魔導将軍になると目されている人物だ。

 かけている眼鏡をクイッと上げて言う。


「レグド殿下からミリトリアに贈られたドレスを、嫉妬から切り刻んだのは貴方ですよね」

「違います。そんな事はしておりません」

「また嘘を。嫌がらせに困るミリトリアから相談を受け、対策として記憶石を渡しておいたのですよ。そこに映っていたのは、珍しいプラチナ色をした髪。つまり貴方なのですよ」

「確かにプラチナ色の髪は珍しいですが、学園内には他にいない訳ではありません」


 フレミアは髪を触りながら反論するもののグラムは見下すだけで取り合わない。

 そして最後の証言者は、ミリトリア・スマスカシ。

 若干震えながらも、近くにレグドがいる為、大きく深呼吸をして言った。


「わ、私は、フレミア様に殺され掛けました!」


 その言葉に会場中がざわめいた。

 罵詈雑言を浴びせるのも、衣服を傷つけるのも、貴族社会ではある意味で当たり前の出来事であるが、殺され掛けるとは穏やかでは無い為だ。


「階段を降りようとすると、背中を強く圧され、転がり落ちました。う、薄れゆく意識の中で……階段の上にいたのは、間違いなくフレミア様に、間違いありませんでした!!」


 涙を流しながらミリトリアは言った。


「よく言った、ミリトリア――。後は任しておけ」

「レグド様……はいっ」


 ミリトリアに向ける穏やかな顔を一変させ、レグドはフレミアに向けて言った。


「ミリトリアの証言を元にお前を殺人容疑で捕らえる。衛兵!」


 レグドの言葉に呼ばれ衛兵数名が人をかき分けてやってくる。


「牢屋で今までの行いを反省し、懺悔を行う事だ!! 不愉快だ。さっさと連れて行け」

「……」

「どうした? なぜ連れて行かない」

「国王陛下より騒ぎが起きた場合は、フレミア様をお守りするように今宵の衛兵全員に通達されております故に」

「なんだと。父上がどのような意図かは分からぬが、その女は犯罪者だ。さっさと連れて――」


 カラッン、カラッン、カラッン。

 レグドの言葉を遮るようにベルの音が鳴り響いた。

 そのベルを鳴らしていたのは、婚約破棄されたフレミア、その人であった。


「公爵家令嬢、フレミア・アーケストラの名の下に、喜劇「乙女ゲーム」の終了を宣言します!」


 フレミアの態度が今までまるで別人のようになり、呆然とする会場の人々。

 特にレグド、キース、グラムの3人は顕著であった。

 ただそんな中で、ミリトリアは腕を伸ばし、首を左右にポキポキと鳴らすと、フレミアの元に駆け寄った。


「喜劇に協力したのだから、約束通り刑期を破棄。自由という事でいいのよね」

「ええ。「無貌」ナイアーラトテップ。1年間。お疲れ様でした」


 ミリトリアは両手で貌を覆う。

 すると桃色の髪は黒く変わり赤いメッシュが左右に現れ、貌は先ほどまでのミリトリアとは似ても似つかない別人になった。


 「無貌」ナイアーラトテップ。

 貌が無い為ありとあらゆる貌になる事が出来る能力を持つクリミナル・スター。


「お、お前は、誰だ! ミリトリアは、何処に行った!!」

「ん。なんだ王子さま。さっきまでの流れで分かるだろ。オレがミリトリアだよ。厳密に言えばミリトリアなんて女は、この世界の何処にもいないんだけどね」

「嘘だ。嘘だ嘘だ――」

「嘘じゃ無くて真実なんだよなぁ、これが。あ、オレを恨まないでくれよ。オレはこの喜劇でお前やその周りを籠絡するための駒でしかないんだよ」

「レグド様。私のことも恨まないで下さいね。私もナイアーラトテップと同じ駒の1つ。悪役令嬢という役所でしかありません。この喜劇「乙女ゲーム」を指揮していたのは――」



「私だ。この馬鹿息子が」


「ち、父上――」


 会場を見渡すことが出来る高所より現れたのは、国王、レオハルト・カーティナルであった。



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