第十一話 夏の祭りと終わり
夏休みも残すところ一週間を切った。もうすぐ高二の夏が終わる。夏休みに入ってからの出来事を思い出し、少し寂しい気持ちになるが、まだオレたちには夏の一大イベントが待ち受けている。それも『夏祭り』だ!
夏祭りの日付は夏休み終わりの一日前。つまり夏休み最終日だ。それまでにオレはやらなければならないことがある。それは――
「夏休みの課題が一つも終わってなーい」
そう、夏休みに入ってからというもの日課の勉強もそっちのけで遊び呆けてしまっていた。そのツケがここにきて回ってきてしまったのだ。
自室で机に向かい、必死に課題を終わらせているとオレの部屋の扉がトントンとノックされた。
「琴美か? 昼飯なら悪いがなんか買ってきて食べてくれ」
いつもならこれで扉の前からいなくなるのだが、それからしばらくしても扉の前から気配が消えない。
不思議に思い、扉を開けてみると琴美が扉の前で浴衣を着て立っていた。
「お前なんで浴衣着てるんだよ」
「朝、澪の家にお祭りの時に貸してくれるって言ってた浴衣の試着に行ったんだけど、着付けてもらったら似合ってるからあげるって言われて……」
琴美はモジモジとしながら浴衣を着ている経緯を話す。
「それは良かったな。俺からも神無月にお礼、言っとくわ」
なにもおかしなところのない会話をしていたはずだったが、琴美はいきなり膨れっ面になり、フンと言って、踵を返して自室へと姿を消した。
「なんでいきなり不機嫌になってるんだ? 妹のことが全くわからん」
思春期の女子はみんなあんな感じなのだろうか。
なんだが今ので勉強の集中が切れたため、オレは昼飯を買いにコンビニへと出かけることにした。
1
昼飯を買いに来たコンビニでカップ麺を選んでいる黒百合と遭遇した。
「よお、黒百合」
「ん? ああ、眷属か」
(その設定復活したんだ……)
黒百合の厨二病の設定には周期のようなものがあり、最近は普通に名前で呼ばれていたため、眷属呼びに思わず戸惑いが顔に出てしまった。
しかし黒百合は一度もこちらに振り返ることなく、カップ麺とにらめっこしている。
「そんなに真剣に何を見てるんだ? 」
横から覗き込むように商品棚を見ると黒百合が見ているカップ麺はカップ焼きそばだった。そしてそのカップ焼きそばには『地獄辛』と書かれており、鬼のような絵が書かれている。
「……これ食うのか? 」
「ネットで話題になっていたから気になって買いに来たが、実は我、辛いものが苦手だ」
「じゃあやめとけよ! 」
「けど気になる! 」
好奇心と自制心の間で揺れる黒百合だったが、しばらく悩んだ末、地獄辛のカップ焼きそばを手に取り、レジを通していた。
先に買い物を済ましていたオレはコンビニ前で黒百合が出てくるのを待っていた。そしてコンビニから出てきた黒百合はというと――
「はあ……」
後悔に暮れていた。
「後悔するくらいなら買うなよ」
「でもあるじゃん。買ってから、やっぱりやめとけば良かったかなってなること」
「あるけども」
帰ってからの昼飯に落ち込む黒百合。
「そういえば! 」
オレは黒百合に言おうと思っていたことを思い出した。
「黒百合、夏休み最終日の夏祭り行く予定あるか? 」
「夏祭り? ああ、そんなのあったな。最後に行ったのは小学生の時だったっけ」
「俺たち生徒会で行く予定なんだが、会長が良かったらこの前の海のメンバーも誘わないかって言われててな。黒百合も行くか? 」
「我も行っていいのか? 」
目を点にして聞き返してくる黒百合。
「もちろん。詳細は帰ってメールするわ」
これで黒百合とは別れ、それぞれ家へ帰った。
帰ってから夏祭りについて集合時間や場所についてメールを送った。
すると黒百合から早速返信が返ってき、夏祭りの件の了解ともう一件、写真添付付きで送られてきたメール。
文面には『全然余裕だった』と書かれており、添付されている写真を開いてみると、唇がパンパンに腫れており、目には涙を浮かべていた。
「全然余裕じゃねぇじゃねーか! 」
ツッコミどころ満載の写真に思わずオレはそう大声でツッコんでしまった。
2
夏休み最終日。そして今夏一番のイベント夏祭りの日だ。
夏休みの課題を昨日で終わらせたオレは夏休み最後の朝を寝て過ごした。
明日から学校が始まるためこんなふうに午前を過ごせるのも今日で最後。そう思うと怠惰だと言われる行為にも箔が付くってものだろう。
そんな時間もお昼が過ぎると自然と終わりを告げる。何度寝ようと試みても眠ることができない。完全に目が覚めてしまった。
時刻は十四時前。のそのそとベッドから起き上がり一階のリビングに行くと電気は消えており、琴美の姿はなかった。
「そういえば神無月の家で着付けをしてもらってから直接祭りに行くって言ってたな」
夏祭りの集合時間は十七時。まだ三時間ほど時間がある。
「なんか適当に腹に入れとくか」
祭りで屋台飯を食べられなくならない程度の軽食を食べ、空腹を誤魔化し、約束までの時間をのんびりと過ごす。
そしてダラダラスマホをいじっていると時間はすぐにすぎていき、十六時を回っていた。
「そろそろ着替えて家出るか」
この日のために新調した浴衣をクローゼットから出てき、着替えて約束の三十分前に家を出た。
夏祭りの開催地は地元の神社でオレたちの集合場所はその神社の隣にある公園だ。
約束の時間の十分前に公園に着くと祭りのやっている神社側はもちろん公園にまで人が押し寄せて来ており、人でごった返っている。
その人混みの中をかき分けて進んでいくと滑り台の横に琴美と神無月の姿があった。
「おーい」
こちらの呼び掛けに気づいた二人は跳ねたりしてこちらに手を振る。
なんとか二人のところまでたどり着くと滑り台の奥に黒百合、心菜、辻野の二年生組が固まって立っていた。
「みんな早いな」
「早め早めに行動するのは当然よ」
「とか言ってるけど玲奈は祭りが楽しみで早く私を迎えに来たんだよねー」
「ちょっと、それは言わない約束でしょ」
そんな話をしていると会長と彩乃先輩の二人も時間の五分前にやってきた。
「これで全員揃いましたね」
「じゃあちょっと早いけど屋台の方に行きますか! 」
しかし会長がオレの提案にチッチと指を左右に振る。
「達也くん。その前に私たちに言うことがあるんじゃないかな? 」
そう言って、くるりと一回転して見せる。
言われてみれば周りからなんやら期待の目線が。
「みんな、浴衣似合ってますね」
「よろしい」
会長は満足そうに踵を返すと神社の屋台の方へ指を指す。
「さて、じゃあ出発するわよ」
こうしてオレたちは公園を出て屋台の並ぶ神社周りの方へ移動を開始した。
3
神社の方はやはり人混みがすごく、八人で行動するのは困難を極めた。
すぐに誰かが人波に流されたり、八人が屋台の前で足を止めると人の邪魔になりすぎる。しかも五時半を過ぎると人の数がさらに増え、もうごった返し状態。
さすがにこの状況はよろしくないと、一度会長の指示で公園の方にはけることになった。
「さすがに計画が甘かったとしか言いようがないわね」
「どうします? 花火までまだ二時間ほどありますし、屋台も回りたいですけど……」
会長はしばらく熟考し、そして一つの判断を下した。
「仕方ないね。ここからは各自自由行動にしましょ」
みんなが顔を見合せ、『でも……』という表情を浮かべる。
「各自誰かと回ったりするのも自由。一時間半後またここに集まってみんなで花火の場所を取りに行く。もうこれしかないわ」
会長の判断は合理的で現状の最善の策。それぞれ思うところはあるだろうがこれ以外に祭りを楽しむことはできないだろう。
みんな苦渋の決断だが、これを受け入れる。
「それじゃあ、また七時に。解散! 」
――と、なったはずが……。
「なんでみんないるの? 」
全員がオレが動くとそれに連動して動くという奇妙な状況になっていた。
「私はたっちゃんと回ろうと思って」
「私もよ」
「我も」
「
「私は澪がいるから仕方なく……」
結局みんなで回るみたいな感じになってしまっているこの状況は良くないと会長が女子を集め、小会議を始めた。
そして二分後。会長がオレの前に来、会議の結果を告げる。
「達也くん、喜べ。今から美少女七人と順番にデートだ」
公園に集まる時間は七時四五分に延期、それぞれ七人と十分ずつ夏祭りデートが実施されることになった。
4
一人目は心菜。訪れた店は祭りの定番金魚すくい。
「ねぇねぇ、たっちゃん覚えてる? 金ちゃん! 」
「ああ、覚えてるよ。俺と心菜と琴美の三人で小学生の頃この祭りに来た時、俺が取った金魚な」
「そうそう。持って帰ったらたっちゃんのお母さんにどうするの! って怒られて翌日鉢やら餌やら一式買いに行ったよね」
「そんなこともあったな」
心菜は前の子供が終わると店主にお金を渡し、ポイを受け取る。
「今日は持って帰らないけどたっちゃん取ってみてよ」
そう言って手に持ったポイと器を手渡してくる。
「この頃は一匹しか取れなかったけど今の俺を舐めるなよ」
浴衣の袖を捲り、心菜からポイと器を受け取ると水槽の前に座り込み、一匹の金魚に狙いを定める。
(あの全然元気がなさそうな金魚なら簡単に)
ポイをゆっくりと忍ばせ、金魚の下につけると今だ! と金魚をすくい上げる。
後はポイの上に乗った金魚を器に移すだけ。慎重にポイを動かしていると金魚が急に覚醒したかのように暴れだし、ポイを破って逃亡。オレは開いた口が塞がらなかった。
「はい、兄ちゃん残念! 」
「たっちゃん――やる前あんなに息巻えてたのに――」
心菜は笑いを堪えられないと言った様子で途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
悔しさのあまり、もう一度、もう一度と挑戦するが結局一匹も取れず、時間切れで心菜とのデートは終わった。
5
二人目は辻野。集合場所はたこ焼きの屋台。
心菜と解散後、たこ焼き屋を訪れると既にたこ焼きの木舟皿を二つ持った辻野が横のイートインスペースに鎮座していた。
「悪い、遅くなった」
「いえ、時間通りよ。私が先に買っておいた方が効率がいいと思っただけよ」
さすが辻野、クールで頭が回る。
辻野の横に腰を下ろし、たこ焼きを受け取ると二人でたこ焼きを食べ始める。熱々のたこ焼きは一口で行くには厳しく、半分に割って冷ましてから口に運ぶ。
ふと、隣を見てみると辻野も息を吹きかけ、冷ましてから口に運んでいる。その仕草がどこか色っぽく、ドキッとしてしまった。
「何? 」
オレの視線に気づいた辻野がたこ焼きを頬張り、膨れた顔でこちら見る。
「いや、なんでも――
誤魔化すようにたこ焼きを頬張ると熱さで口の中を火傷した。
「もう、何してるのよ」
辻野はふふっと笑いをこぼす。
そして再びフーフーとたこ焼きを冷ます辻野。
するとそのたこ焼きをオレの方に差し出してきた。
「えっ? 」
「その……えっと……あ、あーん」
驚きのあまり目と口が開いてしまう。
辻野はそれをあーんで口を開けたと思ったのかたこ焼きをオレの口に放り込んだ。
「う、うん。美味いよ」
顔をタコのように真っ赤にした辻野からは熱々のたこ焼きのように湯気が出ているように見えた。
6
続いての待ち合わせは射的屋で黒百合とだ。
辻野と別れたあと、射的屋に向かうと射的屋の周りに大量の野次馬がたむろしていた。
「おいおい、あの子全部一発で落としてるぞ」
どうやらものすごく射的が上手い子が遊んでるみたいだな。
一目見ようと思い、人を掻き分け最前列に出るとそこには銃を二丁持ちをしている黒百合が射的をプレイしていた。
「ってお前かよ! 」
「おっ、達也待ってたぞ」
オレが黒百合の関係者だとわかると店主が店から出てオレに寄ってきた。
「兄ちゃん、この子の連れかい? もう勘弁してくれ。このまま全部の景品を取られたら商売上がったりだよ」
「すみません。すぐ連れていきますので」
両手に大量の景品を抱えた黒百合を連れてオレは足早にその場を去る。
「我は何も悪いことはしてないぞ」
「そうだが、加減というのは覚えた方がいいぞ」
不満そうに頬を膨らませた黒百合は辺りをグルっと見回す。
「あっ! あのお面! 」
黒百合は日曜朝にやっている戦隊もののお面を見て目を輝かせる。
「買いに行くか? 」
「うん! 」
二人でお面屋の屋台の前まで行くと目の前で小さな男の子がスルッとオレたちの前に入ってきた。
「ママ! このお面買って! 」
男の子が指さしたのは黒百合が欲しがっていたお面と同じものだ。
「こら、お姉ちゃんたちが先に並んでいたでしょ! 」
あとから追ってきた母親が男の子を注意し、オレたちに順番を譲る。
「じゃ、じゃあこのお面を」
当初から予定していたお面を黒百合が指さすと店主は困ったような表情になった。
「このお面ね……最後の一個だ」
その店主の言葉を聞いた男の子は目を見開いたあとじわじわと目に涙が浮かんでき、今にも泣き出しそうだ。
母親もこんなことになるとは思っていなかったのだろう。男の子を抱きしめなだめている。
「黒百合」
「わかっている」
黒百合は男の子の寄っていき、手に持っていた射的の景品からクマのぬいぐるみを取り出し、お面を付けて男の子の差し出した。
「これをやるから泣くんじゃない」
男の子はクマのぬいぐるみを受け取ると涙を拭い笑顔を見せる。
「ありがとうお姉ちゃん」
そうして男の子と母親は去っていった。
「まさかクマのぬいぐるみまで上げるとはな。俺はお面を譲ってあげればどうだという意味で言ったんだが」
「ちょうど荷物が重くて減らしたいと思っていたんだ。押し付ける口実が出来て良かったよ」
いつもはあんなだけど黒百合は家では小さい弟や妹たちのお姉ちゃんをしている。黒百合の面倒見のいいところが出たというところか。
これで黒百合とのデートの時間は終了。オレは次の約束相手の会長のもとへ向かうことにした。
7
会長は焼きそばや串焼きなどの食べ物系の屋台が並んでいるところのイートインスペースにいるということだが。
会長のいると思われるイートインスペースを見渡しながら探していると会長と彩乃先輩の二人の姿を見つけた。
個別でデートって聞いていたけど彩乃先輩があるのはいいのか?
そんな疑問もあるがとりあえず会長たちのいる方へ行ってみることにする。
「会長! 」
「やあ、達也くん待ってたよ」
会長たちの近くに行ったオレはそこで信じらなれないものを目撃した。
「どうしたんですか、その量の屋台飯! 」
四人掛けのテーブルに敷き詰められたバリエーション豊富な屋台飯たち。
「彩乃ちゃんと回ってたらテンション上がっちゃってこの祭りで売ってるやつ全部買っちゃった」
「私は止めたんだけどね」
彩乃先輩が呆れた様子で溜息をつく。
「結構頑張って食べてるんだけど全然減らなくて、みんなも呼んでるんだけど電波が悪いのかメッセージがちゃんと送れてなくてさ」
「確かに俺のところにもそんなメール届いてないです」
「一応私の後のデートが彩乃ちゃんの予定なんだけど私たちの二人の時間二十分を使って食べれるだけ食べてって」
「彩乃先輩いいんですか? 」
「食べ物を無駄にする訳にはいかないでしょ」
喋ってる時間ももったいないと会長がオレに早く座るよう促してくる。
「じゃあ、いただきます」
全部ちょっとずつ手をつけている会長の方と別に彩乃先輩の分で買っていた新品の屋台飯を受け取り食べていく。
会長と彩乃先輩で一人前の焼きそばやイカ焼きを食べるのに対し、オレは一人でしっかり一人前の料理を食べていく。
最初こそ祭り特有の鉄板で焼かれた香ばしさに舌鼓を打っていたがそれも次第にキツい要因の一つとなっていく。
二十分かけ何とか甘い物以外の料理を完食した。
「達也くんありがと。あとの甘いのは私たちに任して! 女の子は甘いものならいくらでも食べれるから」
「私は無理なのでこの辺は次のデート相手の神無月さんにでも渡してちょうだい」
彩乃先輩からベビーカステラと綿あめを貰い、神無月のもとへ向かう。
8
「神無月はこの辺にいるやはずなんだか」
神無月を探し辺りをらていると人波のど真ん中でぼーっと立ち尽くす神無月を見つけた。
「神無月、何をしてるんだ? 」
神無月の隣に並び同じ方向を見てみるとくじ引きの出店が目に入った。
「この棚の上に飾ってあるゲームは全部当たんですか? 」
「まあ、置いてあるってことは当たるんじゃないか」
「私これまでゲームってものをやってこなかったので興味あります。ちょっと引いて見ます」
神無月は店の前まで行くと店主にお金を渡してくじを引いた。
「104番。残念ハズレ、これ景品ね」
もちろん、そんな簡単にゲームが当たるはずもなく残念賞として手渡されたガラクタの玩具に神無月がふくれる。
「店員さん。ここにあるくじ全部ください」
ヤケになった神無月は財布からクレジットカードを取り出し店主に見せつけた。
「ぜ、全部はダメだよほかの子供たちが引けなくなる。それに屋台でカードは使えない。また引きたいなら現金を持ってきてくれ」
「現金で払えばいいのですね」
ガサゴソとカバンの中を漁りスマホを取り出した神無月はどこかに電話をかけだした。
「あっ、お父様。今すぐ百万円ほど現金で持ってきていただきたいのですが」
「ちょい、ちょい。もう諦めよう神無月。ほら、花火を始まっちゃうしな」
このままだと本当に現金でくじ全部を買ってしまいかねないので強制的にその場から引っ張り離す。
くじで当たりが引けず不機嫌な神無月はくじ屋の前から離れたあともチラチラそちらの方向を見ている。
「ほら、機嫌直せよ」
彩乃先輩に貰った綿あめとベビーカステラを神無月に渡し機嫌を取る。
「来年はリベンジします」
「それは好きにしてくれ」
綿あめを食べ少しは機嫌が良くなった神無月とはこれで別れて最後の琴美のいる場所へと向かう。
9
「おーい、琴美。待たせたな」
「別に待ってないし」
「どこか行きたい店あるか? 」
「別に……。適当に歩いてさっさとみんなと合流しよ」
一人ズカズカと歩いていく琴美の後を追って人混みへと入っていく。
何も話すことなく雰囲気は最悪。お世辞でも仲のいい兄弟とすら言えないような状況だ。
「琴美、お腹すいてないか? 」
「……ちょっと」
「なんか食べたいものないのか? 」
辺りを見渡して琴美はひとつの店を指さした。
「あれ」
琴美が指さしたのはりんご飴と書かれた屋台。
「よし、行くか」
店の前まで行き、琴美にお金を渡してりんご飴を買うのを待つ。
「それにしても最近はりんごだけじゃなくていちごとかぶどうとかあるんだな」
「いや、結構前からあるけど。平成に取り残されてますか? 」
りんご飴を買って戻ってきた琴美に煽られた。
「それでも琴美はりんご飴を買うんだな」
「だってこれが一番美味しいし」
「昔、俺たちと心菜で夏祭り来た時もずっとりんご飴舐めてたよな」
琴美は顔をりんご飴と同じぐらい真っ赤にしてそっぽ向く。
「そんな昔のこと覚えてるなんてキモッ」
別にキモくないだろと思いつつスマホで時間を確認するともう集合時間寸前。
「そろそろ公園に戻るか」
琴美は小さく頷き二人で公園に戻った。
10
公園に戻るとみんな既に集まっており、場所の相談をしていた。
「おまたせしました」
「おかえりー。じゃあ時間も時間だし候補に挙がったところで空いてるところ行こっか」
話し合いはまだまとまっていなかったようで行き先はまだ決まってないようだ。
「あの、一つ穴場があるんですけど」
オレは手を挙げそう主張してみる。
「どこ? 」
「神社の本殿裏の階段を登ったところに見晴らしのいいところがあるんですよね」
「へぇー。じゃあみんなで行ってみようか」
花火の時間も迫っているため早足でその場所へ向かう。
「おぉー。いい眺めね」
「花火もう始まるって」
みんながベストポジションに着いた瞬間。
パーン!
大きな花火が空で弾けた。
「おっきーい」
「いいねー」
それから続けて花火が上がり、空に満開の花が咲く。
「これで夏も終わりかー」
「明日から学校ですね」
「二学期は大忙しよ」
だんだん派手になっていく花火に夏を終わりを感じながら思い耽る。
明日からはまた学校のある普通の日常が始まる。この夏休みは過去一濃い夏休みとなった。けれど二学期は学校行事も盛りだくさん。退屈になるなんてことはないだろう。
花火が一旦止まりしばらくの静寂が訪れると大きな音を立て最期の花火が打ち上げられた。
大きく開いた花火は今までで一番美しくまるでその姿をオレたちに見せつけているかのようだった。
散っていく火花を目で追い、最期の火花が消えるとみんな顔を見合せる。
「さあ、花火も終わったし帰りますか」
「そうね。明日から学校で早起きだし」
「我は朝までに宿題を終わらせなければ」
「「「「「「「え? 」」」」」」」
この後黒百合は朝までかけて夏休みの宿題を終わらせたという。
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