第26話 北条さん、初めての電車
「それじゃあ、行きましょ」
今は朝の8時半。今日行く遊園地は10時開園で、その遊園地までは1時間半かかる。俺と北条さんは朝食と準備を済ませ、まさに行こうとしている。
「うん行こうか」
二人で扉の外に出る。すると北条さんが疑問の声を上げる。
「あれ、梓。車は?」
いつもはすでに止まっているはずの車が止まっていないのを見て、梓さんに聞いたのだ。
「実は……「あ、北条さん」」
説明しようとする梓さんを遮り声を上げる。これは俺に説明させて欲しいからな。
「今日は電車を使うよ」
「……え?」
「克人さんから電車を使えって言われてさ。北条さんまだ電車、乗ったことないんでしょ。嫌だった?」
「あ、いえ。嫌じゃないわ」
そう言う北条さんの目には好奇心を持っているように見えた。
「じゃあ行こっか」
北条家から最寄駅は歩いて10分弱。その駅はそこそこ大きな駅で、いろいろな路線に乗ることができるが、俺たちが行こうとしている遊園地へは、乗り換え要らずの一本で行ける路線がある。俺たちはその駅まで歩いて行く。
あ、何にもなく、普通に歩いていたぞ。北条家で暮らし始めてからもう三ヶ月になるが外に出る時はずっと車だったから、北条さんと並んで歩くのは少し恥ずかしかったが。
駅に着いて切符を買って中に入り、ホームに行く。すると人がやけに多かった。
この路線は北条家でクラス前にたまに使っていたが、普段は空いている路線だったはずだ。何かあったのかと電光掲示板を見ると、どうやら他の路線で人身事故が起き、振替輸送をしていると分かった。
しばらく待っていると電車がきた。電車の中は空いて、前の方に並んでいたので、奥のドアの前に場所を取れたが後ろから人がなだれ込んできて、潰されそうになった。そこで俺は何とか北条さんの場所を取るために、ドアに手をつき、俺の体とドアの間のスペースに北条さんを入れることに成功した。まぁ所謂壁ドンの形だ。
「えっとその、大丈夫?」
「え、ええ。大丈夫よ……」
この状況はやばい!何がやばいかって?何とか北条さんが潰されずに場所を確保できたが、それでも人が多いため押される。すると当然密着してしまう。
北条さんは俺より頭ひとつ分小さい。そのため北条さんの匂い、おそらくシャンプーの匂いだろう。俺と同じやつを使っているはずなのに何でこんなに良い匂いがするんだ?
後狭いせいで体が密着しているのだが、何やら柔らかい物があったているのだ。小柄なのにすごいものをお持ちだ。いや、何も考えないようにしよう!俺の理性のためにも!
電車に揺られて1時間、遊園地の最寄駅に着いた。そして遊園地向かって歩き始める。すると北条さんの歩みが遅い気がした。
「どうかしました?」
「……電車って怖いわね。みんなすごいわ」
「ハハッ、いや毎回こんなに混んでないですよ。今日はたまたまです」
どうやら人混みに酔ったようだ。なんか遊ぶ前に疲れてしまったな。でも顔が赤いような気がするのは俺の気のせいだろうか。
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