第20話 北条さんにからかわれる

 ひま、いや、北条さんとバルコニーでいろいろあった翌朝、いつものメイドさんが起こしに来た時には、俺はすでに起きていた。


俺は寝起きがとても悪くいつもだったらメイドさんが起こしてくれないと寝過ごしてしまうが、この日は何故か早く起きる事ができたのだ。いや、早く起きれたのでは無い。そもそも寝れなかったのだ。


 --っっ、ああっー、なんてことを言ってしまったんだ。しかも名前を呼び捨てで呼んでしまった……!


 “コンコン”


 「如月様、朝食のお時間なのですが……」

 「はいっ、今行きます」


 ベットの上で悶えていたら、メイドさんに急かされてしまった……。


 しかし行くと言ったはいいが、とても行きづらい。何故かって?今から行く朝食には北条さんもいるからだよ。昨日あんなこと言ったのにぃぃぃ。


 しかしあまりにも遅いと北条さん達を待たせてしまうため、重い足取りで食堂まで向かい、意を決して中に入った。


 北条さん達はすでに席についていたため、急いで自分の席に向かう。


 「おはようございます。お待たせしてすみません」

 「ああ、おはよう。確かにいつもよりおそいな。どうした?」

 「ちょっと寝坊しちゃって」

 「大丈夫だ。たいして待ってないよ。気にするな」


 遅くなったことを克人さんに謝る。嘘をついてしまったが……


 そして早速本題だ。さっと、隣を見るといつも通りの北条さんが座っていた。昨日気安く触ってしまったり、名前を呼び捨てで呼んでしまったから、嫌われてしまったかもしれないが、覚悟を決めていつも通り行こう。


 「おはよう、北条さん」


 返事は一拍置いてから帰ってきた。


 「……おはよう、如月君」


 俺は驚いて思わず隣をみた。しかし北条さんは変わらずいつも通り本を読んでいる。それから克人さんと翔子さんの方を見ると、克人さん達も目を見開いて驚いていた。


 どうやら嫌われてはいなかったようだ。しかも名前を呼んでくれたってことは、前よりも距離は近づいた、ってことでいいの……かな?


 そして朝食後、学校こうとしたところ翔子さんがドアの前で待っていた。


 「修君、何したの」

 「え、いやっ、まぁ……いろいろ……」

 「ふーん。まぁ、いい方向に行ってるからいいわ。じゃっ、若い人たちはご自由に」


 そう言って嵐は過ぎ去っていった。


 まぁ何をしたか聞かれても言えるわけないけど。


 学校に向かう車の中も、学校でも北条さんはいつも通りだった。だからちょっとおどおどした俺に涼達が気づき、からかって来たりした。


 ただ一ついつもとは違う点が北条さんにもあった。それは俺を名前で呼ぶことだ。


 いつもは「ねぇ……」など一切名前を呼んでくれなかったが、今日は逆に「如月君……」と名前でしか呼ばなかった。


 「あれ、名前で呼ばれてるじゃん。なんかあったの」

 「ほんとだー。なあなあ、修さんや。どんなイベントがありました」

 「うるせー。ちょっと遊んで仲良くなっただけだよ」


 涼と千秋さんも北条さんがいつもと違うことに気づき、なんかあったのかと俺を煽ってくる。さすがに北条さんは煽れないんだな。


 まぁ本当のことを言えるわけもないから、適当に誤魔化しておいた。


 そして放課後になり、俺は北条さんと一緒に車が止まっている駐車場に向かっている。


 俺はまだ昨日の恥ずかしさが抜けず、北条さんの少し後ろを歩いていたのだが、急に北条さんが俺の方を向いて、後ろ向きで歩く。そして意地悪そうな顔で言った。


 「ねえ、如月君。昨日みたいに名前で呼ばないの。ほらひ・ま・りって」


 「−-っっ!」


 呼べるわけないだろ!


 俺をからかって満足したのか北条さんはまた前を向いて歩き始めた。


 はぁー。これからしばらくずっとからかわれそうだ。

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