第19話 彼の(北条さんへの)誓い
【陽葵視点】
少し前のある日の夜、寝る前に図書室に本を戻して自室に戻るときにお母様と彼がバルコニーにいた。何やら話しているようだったけど、なぜだか聞いてはいけない気がして、自室に戻った。
それから数日彼がやたら積極的に私のことを構ってくる。しかし不思議とそれは嫌ではなかった。まぁ少し鬱陶しいけど……
そしてある日の夜、私は自室でもうすぐある中間テストに向けて対策していた。
“コンコン”
「陽葵、今いいかしら」
ノックと同時に聞こえてきたのはお母様の声だった。
「どうぞ」
そう答えるとお母様はドアを開けて中に入ってきて、私のベットに腰掛けた。
「こっちへいらっしゃい」
招かれ、お母様の隣に腰掛ける。
「最近どう?」
「特に変わりありませんよ」
「お友達はできた?」
「ええ、近くの子とはよく話してますよ」
そんな他愛のない会話をしたあと、お母様は一息ついてから再び聞いてきた。
「ねえ、修君とはどうなの」
「どうって?」
「話したり、遊んだりしてる?」
「うーん。まぁ、ちょくちょく話したりはしてますよ。あと本を読んだりはしてます」
「ふーん。まぁこれから長い間一緒にいるんだから、仲良くやってね。なんか困った事があったら頼ってみたら?修君、頼り甲斐ありそうだし」
頼り甲斐あるのかしら?ちょっと子供っぽいところあるし。
「陽葵、“あの事”を誰かに言ったことある?」
“あの事”が何かは言われなくてもわかった、私が小学校の頃に起きたことだ。あの出来事以来、私はあまり人を信用しなくなった。
「ううん、話したことないわ」
「そう。……別に陽葵が嫌だったらいいけど、一回誰かに信頼できる人に話してみたら、気が楽になるかもよ」
そしてお母様はベットから腰を上げ、「おやすみ」と一言言って出ていった。
お母様が出ていったあと、私はなぜかモヤモヤした気持ちになったが、何故かはよくわからず、ふと時計を見るともうすぐ10時半になろうとしていた。
そして私はパジャマを持って大浴場に行った。
お風呂から上がり、パジャマに着替え、着ていた服は大浴場にある洗濯籠にいれたあと、自室に戻ろうと廊下を歩いていた時、向こうから歩いてくる人に気づいた。
そう彼だった。
彼も私に気づき、すれ違う時におやすみと私に向かって言った。
その時私の脳内にさっきお母様が行った言葉がチラついた。
「ねえ、少しいい?」
思わず、後ろをむき彼を呼び止めてしまった。
彼も私に呼び止められるとは思っていなかったのだろう。とても驚きながら「はい」と振り返る。
「ちょっと話したい事があるの。ついてきて?」
「あ、うん。大丈夫だけど」
そう言って後ろを向く。
“あの事”以来人と話すのが苦手になり、どうしても素っ気なく言い放ってしまった。
それでも彼は、顔をみてないからわからないけど、少なくとも声はいやな雰囲気を出していなかった。
そのことにちょっと嬉しくなりながら続ける。
「そう。じゃあ付いてきて」
そう言って私は、彼が後ろに付いてきていることを感じながら、先日お母様と彼が話をしていたバルコニーに向かった。
【修視点】
翔子さんとバルコニーで話して数日後、俺はまたそのバルコニーに来ていた。なぜかというと、試験勉強にちょっと挫折して気分転換にと廊下をぶらぶらしていたところ、北条さんとばったり出会したのだ。
俺は最初、いつも通りお休みとだけ言ってすれ違ったのだが、なぜかすれ違ったところで、北条さんから呼び止められ、話があると言われたのだ。
なんかしたかな?思い当たる事があるとすれば、翔子さんから北条さんのことを聞いたあと、少し積極的に話しかけていたから、うざく思われたか!?
そんな懸念をしながら、手すりに手をクロスさせてのっけている北条さんの横に立つ。
ちなみに北条さんのパジャマは翔子さんとお揃いの白い長袖のワンピース型ネグリジェで、翔子さんほどではないが小柄な北条さんにしては大きな果実が俺の理性を削っていた。
しかし、そんな北条さんの話を聞くとそんなこと気にしなくなった。
北条さんの話とは、俺が先日翔子さんから聞いた北条さんの過去のことだった。
最初は静かに聞いていた。しかし、
「親友だと思っていたのに急に離れていって悲しかった。自分の髪と目を悪く言われて悲しかった。確かに私の銀髪と青眼は気持ち悪いですもんね」
そう言いながら北条さんの目から涙が一筋こぼれ出たのを見た瞬間、俺は思わず北条さんを抱きしめた。
北条さんが自分の腕の中で、驚き固まってしまったのがわかった。
そして俺は一旦北条さんを離して次は北条さんの肩を掴んで目を見た。
「そんなこと言わないでくれ。俺は好きだ。その美しい銀髪も、その青い目も、好きだ。北条さんの、陽葵の、悪口を言う奴がいたら俺が一発殴ってやる。そしてもし寂しかったら、俺ではあまり力にはなれないかもしれないけど、ずっとそばにいる。だから自分の悪口を言うのはやめてくれ。お願いだ」
北条さんは虚を突かれたように固まり、俺の顔を見ていた。
一方、俺はだんだん冷静になっていると、自分の言動が恥ずかしくなった。
あぁ、俺はなんて事を言ったんだ。しかも北条さんを名前で呼ぶなんて……
そして俺は北条さんの肩から手を離し、慌てて「おやすみ」とだけ言って、自室に逃げ帰ったのだった。
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