楽武・メイカー

@woshimoto_misui

朝の会  現代日本に喧嘩士の居場所は無いのか……




 ――その光景を見ていた女子中学生・セシリー・カステックス(14)は後に語る。



 ――日本に来て五年になりますけど、あんなのは初めて見ました。

 ――時間は塾の帰りでしたので10時頃ですわ。その日は急に雨が降りましたの。なので、普段は通らない高架の下の道を通りましたの。はい、あそこの落書きがいっぱいある。

 ――ええ、私が見たときはまだ『始まって』いませんでした。

 ――第一印象は……少女マンガに出てくるヒロインみたいでした。身長はこの

ぐらい――130センチぐらいで、ボーイッシュな格好の女の子だったんです。殿方にはわかりにくいかもしれませんが、『女の子が憧れる女の子』って印象でしたわ。モデルみたいなスラッとした体型とは違った、ああ、こんなかわいい女の子として幼稚園や小学校を過ごせたらなって思うような、そういう感じの。

 ――その女の子が殴り飛ばしたんです、不良を。

 ――ええ、あれは明らかに不良でしたわ。私、武道をやっている友人がいるのでわかりましたが、最初に殴り飛ばされたスキンヘッドの不良は、正中線五段突きを受けた後に左ストレートからの右フックで殴り飛ばされていましたわ。本当ですわ、ほらあそこって防犯のために電灯が多いでしょう? だからハッキリ見えたんです。

 ――ええ、驚きました。間近に見ていた不良はもっと驚いたでしょうね。ポカンとしていた太った方の不良は、足払いをかけて倒されながら女の子の肘打ちを喰らって、もう一人の方はいつの間にかお腹を抑えて吐いていました。まるで、アクション映画を見てる時に瞬きしたら何が起こったかわからなくなった時みたいに、気がついたら終わっていたんです。

 ――それからですか? それで終わりです。あれは喧嘩と言っていいのかわからないぐらい、圧倒的な光景でした。信じられますか? 十歳にも達していなさそうな女の子が、大の大人を三人も、数秒で叩きのめしてしまったのです。

 ――でも一番驚いたのは……


「ルイ、お前またやったな。」

「待て、今回は相手に一発殴らせてからやらせた。これならストリートファイトだ。」

「んなわけねえだろ補導だ。」

「クッ……現代日本に喧嘩士の居場所は無いのか……」

「あるわけねえだろ令和だぞ。ほら乗れ。」


 ――その女の子、男の子だったんです。



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