5−7 カロン

「う…」


突如背後でうめき声がきこえた。見るとユベールが私を抱きとめていたのだ。


「ユベール様っ!しっかりして下さいっ!」


すると背後で扉の閉まる音が聞こえた。


キィ〜…


ハッとなって振り向くと、カロンが牢屋の鍵を掛けるところだった。


「待って!」


慌てて扉へ向かって駆け出すも間に合わなかった。


ガチャンッ!


私の叫び声もむなしく、鍵は無情にもかけられてしまった。


「ハッハッハッ!せいぜい、その中で王の許しが得られるまでおとなしくしている事だな。最もこの寒さだ、どの程度お前たちが持つか分からないがな?」


白い息を吐きながらカロンが仲間たちと私達を見てあざ笑っている。


「カロン…貴様…っ!」


ユベールが悔しげに歯を噛み締めている。カロンはニヤニヤ笑みを浮かべながら、突如鉄格子から手が伸びてきて私は顎を掴まれてしまった。


「へぇ〜…暗がりだったからよく分からなかったが、こうやって見てみるとお前…中々器量良しじゃないか…どうだ?俺の女になるって言うならここから出してやるぞ?」


「カロンッ!!」


背後でユベールの声が聞こえた。すると突然カロンが今度は私の首に腕を回してきた。そしてゾッとする声で言う。


「おっと、動くなよユベール。お前が動けばこの女の首をへし折るぞ?」


「うっ…」


ユベールは悔しげにその場に止まった。それを見るとカロンは再び私の耳元で言う。


「どうだ?お前はアンリ王子の婚約者候補でやってきているが…王子にはジュリエッタという恋人がいる。例えお前が婚約者になって結婚したとしても真の夫婦になることはない。俺がお前の男になってやろうか?」


そして私の身体を弄ってきた。いや…気持ち悪い…。


「やめろッ!カロンッ!」


ユベールが叫ぶ。


「ユ…ユベール様っ!」


こんな、ユベールの前でこんな事をされるなんて…寒さで身体もかじかんで言うことを効かない。だけど…!


ガブッ!!


私はカロンの右掌に思い切り噛み付いた。


「痛ってーっ!!何しやがる!このアマっ!」


バシイッ!!


激しい衝撃が頬に走り、目から火花が飛んだ。叩かれたんだ。一瞬意識が遠くなりかけた。


グラリ


衝撃で身体がよろめく。脳震盪をおこしかけたのか目眩がする。


「シルビアッ!」


ユベールが駆け寄り背後から抱きとめてくれた。


「カロンッ!貴様…っ!よくもシルビアにっ!」


「フンッ!その女が生意気だからだっ!行くぞ皆っ!」


カロンが仲間たちを連れて牢屋から去っていくのをぼんやりする頭で私は見つめていた。


「シルビア、シルビア…しっかりしろ…」


ユベールが悲しげな声で私を胸にしっかり抱きしめてくる。ユベール…。私の事を心配してくれるの…?


「だ…大丈夫…です。私なら…」


だって私が死ぬのはもっと先、7月7日だ。その日がくるまでは…。そこで私の意識は闇に沈んだ―。



****


 カチコチカチコチ…



 温かい…時計の音と共に近くで話し声が聞こえてくる。



「全く…僕が来なければどうするつもりだったんだい?ユベール」


アンリ王子の声が聞こえる。


「ああ、分かってる。アンリ王子には感謝している…」


「でも、これで君は僕にまた1つ借りが出来たんだからね?これからも僕の手足となって働いて貰うからな」


「…ああ、勿論だ…」


「それじゃ、僕は行くよ。ジュリエッタを待たせているからね。ユベール、君は行かないのかい?ジュリエッタが僕たちの為にお茶を用意してくれているんだよ?」


「いや、俺は…シルビアの傍にいる」


傍にいる…。


ドクン


自分の心臓の鼓動が大きくなった気がした。


「ふ〜ん…ユベール。何だか変わったね。」


それだけ言うとアンリ王子の足音だろうか?カツカツと遠ざかって行き、扉の開閉音が聞こえ…静かになった。


「ふぅ…」


ユベールのため息を付く声が聞こえ、こちらへ近付いてくる気配を感じた―。

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