4-4 新しいメイドと9回目の死の記憶
翌日―
朝日が部屋に差し込む頃、私はポツリと呟いた。
「とうとう…一睡も眠ることが出来なかったわ…」
昨夜は部屋に戻ったのはいいけれども、今日からユベールがいなくなる不安でとてもではないが眠ることが出来なかったのだ。身体はだるくて仕方が無かったが、休むわけにはいかない。何故なら今日は初めての選定日である。
「仕方が無い、起きなくちゃ…」
のろのろとベッドから起き上がると私は朝の仕度を始めた。
午前7時―
コンコン
突然部屋の扉がノックされた。
「はい、どなたですか？」
丁度朝の仕度を終えた私は返事をすると、扉の外で声が聞こえた。
「ユベール様の命でお食事を持って参りました」
「あ、は・はい！どうぞ！」
慌てて返事をした。そう言えばユベールが昨夜私に話した事を思い出した。明日の朝食からは私の食事は部屋に運ぶように伝えておくと…。
私の返事に扉がカチャリと開けられた。
「失礼致します」
1人のメイドが食事の乗ったワゴンを押して部屋の中に入って来ると私に挨拶してきた。
「初めまして。私はメイドのリンと申します。今朝からユベール様の命により、シルビア様付きのメイドになりました。どうぞよろしくお願い致します」
そして頭を下げる。一方、慌てたのは私の方だ。
「え？あ、あの！ちょっと待って。そんな話は初耳だし、私はメイドを持つ気は…」
しかしリンは言った。
「ですがシルビア様。恐れながら、今回の選定試験でメイドや侍女を従えていないのはシルビア様お1人ですよ？何故なのですか？」
「そ、それは…！」
9回目の死の時…私は王宮からの差し入れだと言う事で当時私に仕えていたメイドがお茶とケーキを用意してくれた。そして私はそれらを口にして…私は突然胸をかきむしられるような痛みに苦しみ、口から大量の血を吐いて‥あの死を呼ぶ鐘の音を聞きながら私は死んだ…。その時の記憶があるから、メイドを信用する事が出来ずにいた。だから今回は誰も傍に置かないようにしていたのだが、ユベールの命令なら仕方が無い。
「分りました。今日から…よろしくお願いします」
頭を下げると、リンが慌てた。
「そんな！頭を上げて下さい！それにいけません。メイドに頭を下げたり、敬語を使っては」
「分ったわ。気を付けるわね」
そうか、ここでは身分関係は絶対なのだ。リンを困らせる訳にはいかないので、私はすぐに謝った。
「それでは朝食の準備をさせて頂きますね」
「ええ、お願い」
そして私はリンが朝食をテーブルの上に並べる様子を眺めて待っていた―。
「ありがとう、準備してくれて」
全ての料理がテーブルに並べられたので、リンに礼を述べた。
「いいえ、これが私の仕事ですので。それではシルビア様、私はこれで一度退席させて頂きます。お食事が済んだ食器はワゴンの上に乗せて廊下に出して頂ければ結構ですので。失礼致します」
「ええ、ご苦労様」
するとリンは少しだけ頬を染めて笑みを浮かべると部屋を出て行った。
テーブルの上にはトースト、スクランブルエッグにボイルエッグ、ハッシュドポテトにグリーンサラダ、そしてオレンジジュースが乗っている。
「どれも美味しそう…」
着席すると早速食事を始めた。
自室から外の景色を眺めつつ、のんびりした気分で頂く朝食は最高だった。今まではずっとダイニングルームで食事をしていたが、周りの令嬢達からコソコソささやかれ、嫌な気分で食事をしていたので、今の環境がまるで天国の様だ。
「朝、会ったら…ユベールにお礼を言わなくちゃね…」
ぽつりとつぶやきながら食事を進めた―。
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