4−1 選定日前日

 明日はいよいよ魔石探しが始まって最初の選定日―



「またか、お前らで今日で5組目だな」


ユベールが床の上に倒れた3人の男達の前で、震えている4人の令嬢達に言う。彼女たちは全員真っ青な顔で震えているだけで一言も声を発することが出来ない。それは当然だろう、床の上に転がっている男達はつい先程一斉に魔石を奪う為にユベールに向かって襲ってきたのだ。しかし、ユベールは剣を抜く事も無く一瞬で男達を倒してしまったのだから。


「明日が選定の日だから必死なんだな。見境なく襲ってくるのだから、お前たち恐らく魔石を一つも持っていないんじゃないか?」


ユベールが不敵な笑みを浮かべると令嬢達はビクッと肩を震わせた。どうやら図星のようだ。


「全く…俺たちを襲う暇があるなら魔石探しに力を入れたほうがいいんじゃないか?」


すると1人の令嬢がついに声を上げた。


「な、何よ!私達だけじゃ見つけられないから、あんたたちを襲ったんじゃない!」


「そうよ!きっとさぞかし魔石が集まったんでしょうね?」


「少し位分けてくれたっていいでしょう?!」


「そ、そうだわ!お金を払うから分けて頂戴よ!」


ついにはとんでもないことを言い出す令嬢まで表れた。するとその言葉にユベールの顔つきが変わった。


「おい、そこの女。一体今何を言った?!」


何とユベールは剣を抜くと今の台詞を言った令嬢に剣を向けた。


「ヒッ!」


令嬢は切っ先を喉元に向けられて悲鳴を上げた。


「「「キャ〜ッ!!」」」


残りの3人も悲鳴を上げる。


「ユベール様、落ち着いて下さいっ!」


私は必死でユベールを止めた。


「何故止める?」


ユベールが振り返ってこちらを見る。


「彼女たちを傷付けるおつもりですか?相手は女性ですよ?」


「だから何だ?こいつらは男を使ってお前を襲わせようとしたんだぞ?」


ユベールは剣を向けたまま言う。


「それでも駄目です!」


そして私は令嬢達を見ると言った。


「早く!行って下さい!ユベール様の気が変わらないうちに!」


「「「「…」」」」


令嬢達は青ざめた顔でこちらを見ていたが、私の言葉に慌てて駆け出して行った。


「全く…最後の女はとんでもない奴だったな。でもこれであいつらはもう襲って来ないだろう?多分な…」


ユベールは剣を収めながら言う。


「ユベール様…でも本当にこんなやり方よろしいんですか?」


「何がだ?」


「こんな剣を向けて脅すようなやり方…ユベール様が悪者になってしまいますよ?」


「だが、これだけやっておけば多分あいつらはお前に恩義を感じるはずだろう?お前を直接襲ってくるようなことにはならないんじゃないか?最も…多分俺達を襲ってきた奴ら…明日でここから去るだろうな?何しろ全員魔石を持っていないようだったしな。明日…どれ位の令嬢が落とされるか見ものだ」


ユベールはニヤリと笑みを浮かべて言う。


「ところでユベール様、私達は今何個位魔石を持っているのでしょうか?」


「何だ、お前は自分で魔石の個数を把握していないのか?」


「は、はい…」


何しろ、私は魔石が放つ鐘の音を聞くだけで気分が悪くなってくるのだ。今となっては魔石から発せられる鐘の音を止めたい為に魔石を探しているようなものなのだから」


「俺達は全部で魔石を今52個持っている。多分一番持っているんじゃないか?やはりアンリ王子にルールを変更してもらった甲斐があったな?」


「そうですね」


新たに設けられたルールはこうである。格グループはそれぞれ魔石が隠されている場所を割り当てられる。そこには必ず同数の魔石が隠されている。自分たちは自分たちの持ち場で魔石を探すように言われたのだ。この方法に変更された時、令嬢達は歓喜したのだが…割り当てられた場所は何処も広く、そこから手のひらに乗るほどの大きさの魔石を探すのは用意なことでは無かったのである。なので令嬢達は魔石探しに難航していた。そして明日は第1回目の選定日で合否が決まる。魔石を一つも見つけることが出来なかった場合、ここを去らなければならない。そこで令嬢達は最終手段として魔石を所持する私達を襲って来たのであった。


その時―


ボーン

ボーン

ボーン



魔石探し終了の鐘が鳴り響いた。今日の魔石探しが終了したのだ。


「よし、終わったな。それじゃ、ここで解散だな」


「はい」


「夕食の席でまた会おう」


ユベールはそれだけ言うと去って行った―。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る