3−24 朝食の席で
翌日―
「ふう〜…もう朝になっちゃった…」
ベッドの上で私はポツリと呟いた。
結局あの後、1人バリュー商会へ戻った私が買えたアイテムは傷薬と小型の火炎瓶のみだった。
「はあ…」
ベッドサイドに置かれた品を見てため息を付いた。
それにしてもこの世界に出回っている武器や防具、アイテムには魔石が仕込まれているとは思わなかった。最もその魔石のお陰で特殊な効力を発揮する事が出来るのだろうが、情けないことにそのせいで私は効力のあるアイテムを一切持つことが出来ず、こんな原始的な物しか買うことが出来なかったのだ。
「こんなんじゃ…ユベールがパートナーをやめてしまった場合…あっという間に魔石を狙う皆から狙われてしまうかも…」
おまけにアンリ王子のあの言い方…どんな手段を使ってでも奪って良いのなら、相手の生死を問わないと言っているようにも聞こえてしまう。そうなると私はこの世界でもまた理不尽な死を迎えなければならないことになるかもしれない…。
そんな事を考えていたせいで、昨夜は一睡もすることが出来なかったのだ。
壁に掛けてある掛け時計を見ると時刻は6時になろうとしている。朝食の時間は7時からだから、そろそろ起きて朝の準備をしておこう。
私はベッドから起き上がると、足元に置かれたスリッパに足を入れた―。
「…よし」
ドレッサーの前に座り、長い髪をとかして髪留めでまとめるとブラシを置いた。
鏡の前で立って今の自分の服装を見てみる。膝下の飾り付けのないシンプルなワンピース。なるべく動きやすさを重視して今日からはこういう服装をすることにしよう。これではあまりメイドと変わりない姿かもしれないが、いざという時、身軽に動ける服装のほうが良いにきまっている。
その時…。
ボーン
ボーン
ボーン…
7時を告げる振り子時計がなったので、私は部屋を出た―。
****
ダイニングルームへ行くと、私は早速そこにいた令嬢達から集中的に視線を浴びた。皆、何故か遠巻きに私を見て何やらヒソヒソ話している。一体何だろう?何故皆こんなに私の事をジロジロ見ているのだろう?思い当たる事が多すぎて、視線の理由がさっぱり分からなかった。
「…」
何とも居心地が悪い思いをしながら、食事を渡している配膳コーナーへ行き、給仕の女性に料理の乗ったトレーを受け取ると、なるべく目立たない隅の丸テーブルへ行くと食事を始めた。オニオンスープを飲みながら辺りを見渡すと、やはり彼女たちは私の方に視線を送り、何やらヒソヒソ声で話をしている。こんなあからさまな態度を取られると食欲も萎えてしまう。可能なら…お昼から自分の部屋で食事を取れないか聞いてみようかな?
それにしても何故ユベールは食事の席に現れないのだろう?やはり昨日の事が原因で彼を怒らせてしまったので、アンリ王子に申し出て護衛騎士に戻してもらったのかもしれない。そうすると私は今日から1人で魔石探しをしなければいけない。
「どうしよう…ただでさえ、魔石に触れることが困難なのに…」
しかしそんな事は言っていられない。何とかあの音に耐えて魔石を探し出して素早く袋に入れれば…。
「おい」
だけど…あんな状態で素早く動くことが出来るのだろうか?
「おい、聞こえているのか」
あの音を自由に遮断する事が出来ればいいのに…。
「シルビアッ!」
その時突然大きな声で名前を呼ばれたので慌てて顔を上げると、そこにはユベールが立っていた。
「え…?ユベール様?」
「どうした?いくら呼んでも返事をしないなんて。」
ユベールは食事が乗ったトレーを手にしていた。彼は私のテーブルにトレーを置くと着席した。
「…」
私はぽかんとした目でユベールを見た。
「うん?何だ?どうしてそんな目で俺を見る?」
ユベールは不思議そうな目で私を見た。
「あ、あの…もう私とはパートナーを解消したのかと思って…」
「何故そう思うんだ?俺はそんな事一言も言った覚えはないぞ?」
「けど…昨夜私はユベール様を怒らせて…それで…」
「別に俺は怒ってなんかいなかったぞ?ただ…どうすればいいか分からなかっただけだ。大体、勝手にパートナーを解消するはずないだろう?俺の今の役目はお前が安全に魔石探しを出来る手伝いをすることなのだから」
「あ、ありがとうございます…ユベール様」
思わずうつむくと、ポンと頭に手を置かれた。え…?
驚いて顔を上げると、そこには少し照れた様子のユベールの顔がそこにあった―。
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