2−14 初日、終了

 午後8時―


その日の夕食の席に私は参加しなかった。疲労困憊だったし、何より先程のイメルダのダガーを見た時に恐怖を感じたからだった。


「あのダガー…あれはイメルダの物だったんだ…」


明かりも灯さずに、暗い部屋の中でベッドに寝転がりながらポツリと呟いた時―。


コンコン


扉をノックする音が聞こえた。


「え…?誰だろう?」


ベッドからムクリと起き上がり、室内履きを履くと私は扉に近づいて声を掛けた。


「どちら様ですか?」


「俺だ、ユベールだ」


「え?!ユベール様?!」


慌てて扉を開けると、そこには相変わらず騎士の姿をしたユベールが立っていた。


「どうしたのですか?もしかして魔石に何かありましたか?」


ユベールが何の為にこの部屋へやってきたのか皆目見当がつかなかった。しかし、ユベールの口からでてきたのは思いも掛けない言葉だった。


「それはこちらのセリフだ。シルビア、何故食事に来なかったのだ?」


「あ…それは少し疲れたからです…」


「部屋が暗いな…あ、ひょっとして寝ていたのか?」


「いえ、寝ていたと言うか…少し横になっていただけなのですが…」


頭をかきながら言うと、ユベールが眉をしかめた。


「顔色が悪いな…魔石探しが疲れたのか?」


「疲れたと言うよりは…」


そう、疲れよりも感じるのは恐怖だ。あの魔石を探すという事は自分がいつも死を迎えた時に聞いていた鐘の音を探さなければならないということ。あの音を聞く度に、今まで自分がたどってきた死を思い出してしまうから。苦しみや痛み…それらを。


「どうした?シルビア。やはり疲れているのだな。どうする?明日の魔石探しは中止にするか?」


ユベールが尋ねてきた。だけど…。


「いいえ、魔石探しには参加します。もし明日参加しなければ…ひょっとして魔石を既に手に入れて余裕があるのだと思われかねません。そうなると他の令嬢たちが魔石を奪いに襲ってくるかもしれません。」


そう、魔石を奪うために令嬢たちの中には手段を選ばない方法を取って来る人物がいるかもしれない。彼女たちは皆力のある令嬢達だ。事故に見せかけて最悪殺害することだって可能だろう。私はここで12回の死を迎えている。でも今度こそ、死を乗り越え、生きてここを出ていくと心に誓ったのだから。


「そうか、分かった。お前がやる気があると言うなら俺はそれに付き合うまでだ」


ユベールは私の意思が固い事を知ったためか、それ以上言う事は無かった。


「それで、お前…今夜の食事はどうするのだ?もうダイニングルームは閉鎖されてしまったぞ?厨房に頼めば何か簡単な食事くらいなら用意してもらえるかも知れないが…」


「いえ、もう今夜はお食事をいただかなくても大丈夫です。わざわざ私の様子を見に来て頂き、ありがとうございます。でも、もう私の事はお気にかけていただかなくても大丈夫ですよ?」


「何故だ?」


ユベールが首をひねって尋ねてきた。


「はい、私の為にユベール様の貴重なお時間を奪うわけにはいきませんから」


「…」


ユベールは無言で私を見ている。


「ユベール様?どうされましたか?」


「い、いや。別に何でもない。それならまた明日お前の部屋へ迎えに行くからな」


「はい、分かりました。よろしくお願いします」


頭を下げるとユベールが言った。


「とにかく今夜は早く寝ろよ。俺には魔石を感知する力などないのだから」


「はい、分かりました。おやすみなさい」



「ああ、またな」


それだけ言うと、ユベールは去って行った―。

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