7:最大の秘密

 リオの決意に、心動かされたのはテスラだ。

 下唇をギュッと噛みしめて、これまで言えなかった事実を、皆に打ち明けようと大きく息を吸った。


「私……、まだ皆さんに、言っていない事があります」

 

 緊張した面持ちのテスラを、皆不思議そうに見る。

 ルーベルだけは、優しい眼差しでテスラを見つめている。

 テスラはようやく自分自身を受け入れられたのだな、と、ルーベルは思っていた。


「私……、私の父は……、先代国王、ホードラン様なのです」

 

 意を決してそう言ったテスラに対し、四人は何ともいえない表情になる。


「えっと……、知ってましたよ?」

 

 マンマチャックが、遠慮がちに言った。


「えっ!?」

 

 驚くテスラ。


「ごめんねテスラ。でも……、だって、テスラのお母様であるロドネス様の隣の部屋で、先代国王であるホードラン様が眠っていたって聞いたもんだから……。そうなのかな~って、思っていたの」

 

 エナルカも、申し訳なさそうな笑顔をテスラに向ける。


「そ、そうだったのですか……?」

 

 テスラの頭の中は、やや混乱している。

 テスラにとっては、最大の秘密であり、最大の告白であったのだ。


「まぁ、ここまできて、驚くほどの事ではねぇな。薄々気付いてはいたし……。まぁなんだ、気負うな!」

 

 ジークは、にやにやと笑いながら、テスラの背をドンっと叩いた。

 よろめくテスラ。


「僕はさっきまで知らなったよ。イルクナードが教えてくれたんだ。……あ、でもさ、そうなると、テスラって次の王様なの?」

 

 姿かたちが変わっても、変わらぬリオの間抜けな言葉に、テスラはふっと笑った。

 この者達となら、命を懸けて、竜の子と戦える……


「さぁ、魔心石を食べましょう、みんなで」

 

 テスラの言葉に、四人は頷いた。






「これを……、どうやって食うんだよ?」

 

 リオが握りしめている、銀の塊にしか見えない魔心石を見つめて、ジークが言った。

 どこからどう見てもそれは、硬い鉱物にしか見えないのだ。


「このままガブッと……、食べたら歯が折れるかしら?」


 眉間に皺を寄せるエナルカ。


「とりあえず、五つに分ける?」

 

 適当にそう言ったリオが、魔心石を両手で割ろうとする。


「いやいや、それはさすがに無理……、えっ!?」

 

 リオの行動に苦笑いしたマンマチャックだったが、その光景に驚き、目を見開いた。


「これは、いったい……?」

 

 テスラも、目にしている物が信じられないと言った表情だ。

 

 リオは、手にしていた魔心石を、一見すると鉱物にしか見えないそれを、いとも簡単に、パンでも千切るかのようにして五等分にした。


「おぉ、思ったより柔らかかった……。はい、どうぞ」

 

 リオ本人も驚きつつ、四人にそれらを手渡していく。


「魔心石は、手に取った者の心の持ちようで、その形状を変えると言われている。ならば恐らく、お前達は容易にそれを食べる事が出来るはずだ」

 

 ルーベルの言葉に対し、皆半信半疑のままだが……


「いただきま~す」

 

 またしてもリオは、あまり深く考えず、いの一番に魔心石を食べた。

 その様子を見守る四人。


「んん、パンだねこれは!」

 

 リオの言葉に、四人はそれぞれ怪訝な顔になりながらも、恐る恐る魔心石を口へと運んだ。


「……あ? なんだこりゃ? ほぼ水じゃねぇか」

 

 そう言ったのはジークだ。

 魔心石を口に含んだ瞬間に、それは液体となってしまったようだ。

 ジークは躊躇うことなく、それをごくんと一飲みした。


「私のは、お菓子みたい。甘くて美味しい」

 

 サクサクと咀嚼しながら、顔をほころばせるエナルカ。

 エナルカの魔心石は、故郷の母がよく作ってくれた焼き菓子のようになった。


「何かの……、果物ですね。甘酸っぱい」

 

 テスラの魔心石は、爽やかな酸味が残る、果物のように変化したようだ。

 こちらもいとも簡単に、それを食することが出来た。

 しかし、マンマチャックは……


「ぐふっ……、えほっ、えほっ! ぐぐぐ……」


 むせながらも、何とか喉の奥へと、魔心石を流し込むマンマチャック。

 すかさずジークが、魔法陣を発動させて、マンマチャックの手の平の上に水を生成した。

 ジークの水をゴクゴクと飲み干したマンマチャックは、一言こう言った。


「ただの、砂でしたよ……」

 

 マンマチャックの言葉に、リオとエナルカとジーク、ルーベルと、そしてテスラまでもが、思わず笑ってしまった。


「何か、体に変化を感じるか?」 

 

 ルーベルの問い掛けに、五人はそれぞれの両手にある魔法陣を見つめる。


「特にこれと言って……。けれど、なんだかこう、体の奥が温かく感じます」

 

 エナルカが答える。


「あぁ、俺もそんな感じがするな。何て言うか……、力が湧いてくるっていうか……」

 

 ジークがエナルカに同意する。


「もっと、どこか痛んだり、苦しくなったりするのかと思っていましたが……」

 

 ホッとした様子のマンマチャック。


「どこも、何ともないですね。本当にこれで良かったのでしょうか?」

 

 テスラが疑問を投げかけた。

 するとリオは……


「試しにやってみよう」

 

 そう言って、魔法陣を発動させて、いつものように炎の魔法を行使した。

 次の瞬間。


「うわぁあっ!?」

 

 驚き、たじろぐリオと、炎から身を守ろうと、リオから離れる四人。

 今までとは比べ物にならないほどの巨大な、溢れんばかりの炎が、魔法陣より発生していた。

 それは、今までの炎とはまるで違っていて、赤く燃え盛る中に白い炎が入り混じった、恐ろしく強い炎だった。


「これは……、想像以上に、凄まじい威力だな……」

 

 少しばかり後退りながらも、ルーベルは笑った。


「凄い……。これならきっと、ワイティアに対抗できる。国を救える!」

 

 リオの言葉に、四人は力強く頷く。


「さぁ、準備は整った……。ワイティアは王都にいるはずだ。急ぎ向かおう!」

 

 ルーベルの号令で、皆は洞窟を後にした。

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