5:トレロ村
「大変お待たせしました。長老より、皆様をお連れするようにと申し使いましたので、こちらへどうぞ」
村から少し離れた場所で待機していた五人のもとに、どちらかというと気の弱そうなダース族の男が一人やってきて、そう言った。
その言葉に従って、五人は男の後をついて行った。
村へ足を踏み入れると、ダース族の者達は、武器こそ手にしてはいないものの、とても警戒した目で五人を見つめていた。
女子供は見当たらず、まだ屋内へと避難しているようだった。
ダース族の男の後に続いて、岩で造られた家々を通り過ぎ、村の中心へ向かうと、そこには一際大きな岩で造られた、見上げるほどに巨大な岩の家が姿を現した。
「こちらに長老がおります。人が村にやって来たと耳には入れましたが……。何故ここへやって来たのか、その理由を長老に話してください」
ダース族の男はそう言って、五人を中へと招き入れた。
扉の代わりであろう、頭上から垂れ下がった動物の皮の暖簾をくぐって中に入ると、そこには年老いたダース族が一人、大きな石の上で座禅を組んでいた。
皺のある顔と体に、長く伸びた白髪。
体を覆う鱗の数はとても多く、その体はとても大きい。
そして、血のような赤く鋭い瞳が、五人の姿を射るように見つめていた。
「ようこそ、我らがダース族の隠れ里、トレロ村へ。何故この地を訪れたか、人の子らよ……。その口から、真実のみを聞かせておくれ」
低くしわがれた声が、そう言った。
「なるほど……。国に起きている様々な災厄……。それら全てが、黒竜ダーテアスの仕業だと、そう言いたいのだな? 人の子らよ……」
五人から旅の目的を聞かされたダース族の長老は、ゆっくりと尋ねた。
「はい。少なくとも、このオエンド山脈に住まう黒竜ダーテアスが、国に何らかの悪影響を及ぼしていると、王はお考えです」
マンマチャックは、しっかりと長老の目を見つめ、答えた。
「だがそうなると……。我らダース族は、お主らをここで殺さねばならぬ」
静かに、しかし重く響く長老の声、その言葉に、リオ達は身構える。
「ダース族にとって、黒竜は神に等しき存在。それをお主らは倒そうと言う……、命を奪おうと言う……。それをみすみす逃すほど、我らはお人好しではない」
「し、しかし! 長老様! あなた方にもいずれ、危害が及ぶかも知れませんよ!?」
エナルカが声を上げる。
「いいや、そのような事は断じてない。黒竜は優しい。間違っても、生き物を殺したりなどせぬ」
長老の言葉に、こりゃ話にならねぇなと、溜め息をつくジーク。
「けれど……、現に、国には多大なる被害が出ております。王都では疫病が流行り、南方の砂漠は広がるばかり。北の山々は年々冬の寒さが厳しくなり、東西では魔物が狂暴化しています。それに……、自分達の師は、呪いによってその身を滅ぼされました。それでもまだあなたは、黒竜ダーテアスが、生き物を殺さぬ優しい竜であると仰るのですか?」
マンマチャックの言葉に、長老はゆっくりと息を吐き、こう言った。
「では、お主らに問おう。何故、それら全てが、黒竜の仕業だと言い切れるのだ?」
「それは……。見た者がいるからです。麓の村々がダーテアスの口から吐く白い炎によって跡形もなく消え去ってしまったのを。私達も焼けてしまった村……、亡くなった人達の姿をこの目で見てきました!」
早口になるエナルカ。
「お主らが見たのは、被害にあった村の跡……、だけであろう?」
長老の言葉に、その真意がわからない五人は首を傾げる。
この長老は何を言いたいのだろうと、それぞれが疑問を抱く。
「その村々を、黒竜が襲ったと言うたのは誰だ? 何故、跡形もなく消え去ってしまったというのに、それを見た者がおるのだ? おかしいとは思わぬか?」
長老の言葉に、五人は五人共、ハッとなる。
確かに、あの惨劇の跡を見た限りでは、生存者など一人もいないはず……
けれど王は、黒竜ダーテアスの白い炎で、とはっきり言っていた。
一体、誰がそれを見て、王に伝えたというのだろう?
「もう一度問おう……。国に災厄をもたらしているのは、真に黒竜の仕業か? お主らは、本当にそう思うのか? その目で、見たわけでもないというのに……?」
長老の言葉に五人は、返す言葉が見つからなかった。
確かにリオ達は、その目で黒竜ダーテアスが村々を襲うところを見たわけではない。
本当に黒竜ダーテアスが国に災厄をもたらしているのかどうかも、よくよく考えてみれば、分からない事なのではないか……?
ただリオ達は、王の言うまま、頼まれるままに、この地へ赴き、黒竜ダーテアスこそが邪悪なる力の根源だと信じていたが、もしかしたらそれは、大きな間違いだったのだろうか?
感じた事のない、大きな大きな不安が、リオ達の心を埋め尽くしていく。
しかし、テスラだけは、別の思いを抱いていた。
もし、黒竜ダーテアスが、邪悪なる力の根源でないのならば……
ヴェルハーラ王国を、国が始まって以来の危機に晒しているのが、別の者だとしたならば……
自分は、許されるのかも知れない……
テスラは、そんな事を考えていた。
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