第5話


 激しい雨が降っていた。家にいるけど外にいても変わらないくらいうるさいと思う。

 外の植物の葉っぱが激しく上下に揺れていた。

 私はソファでラノベを読んでいて、伯生さんは窓際のフローリングに座って、ただただ静かに外を眺めていた。

「白猪堵ってどういう意味か分かるか?」

 白猪堵、久々に聞く。住んでいるところだけど、自分のすみかをわざわざ口にしたりしないし。

 白はわかる、猪もわかる。堵ってなんだろう?

「白い……イノシシ? いや、わかんないです」

 深い意味なんて考えたこともなかった。初見で読みにくいだろうな、と思ったことはあるけど。

「なんとなく、神様の使い的なものを感じますね。合ってますか?」

「多分ちょっとは合ってるんじゃないか」

 煮え切らない解答だ。

「伯尾さんもわかってないんじゃないですか?」

「わかってるって」

 彼は思い出そうとしているように、首を傾げた。。

「猪が無病息災、堵は防ぐ……」

「へぇー、そんな意味なんですか?」

「太陽の意味もあったと思う。いいのか悪いのかよくわかんねーんだよ」

 確かに、あまりよくない気がするけど、解釈次第だと思う。

「だからジメジメしてるんだな」

「それは仕方ないじゃないですか、温泉街ですし」

「ゴキブリがでる」

「うわーいやだ!」

 だけど見たことはなかった。もしかしたら大家さんとか伯生さんが処分してくれているのかもしれない。


 ふとテーブルを見てみると、この間花瓶に活けていた花が変わっていた。色だけ。また同じようなものを貰ったのかな。花があることを思い出すと居心地が悪かった。

 呼吸が苦しい気がしてくる。

 伯生さんの態度が変わったからだいぶ以前より楽なんだけど、ここにいてはいけない気がしてくる。

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