宇宙の人
「――それにしても、ポンコツAIのせいで酷い目に遭ったわ! 機体を嵐の中に突っ込ませるし、雷雨の中で防護シールドを解除するとか、私を殺す気かしら……」
独り言を呟きながら穴から這い出した謎の少女は穴の縁に立つと瓦礫があまり散乱していない床の上へ華麗に着地し、胸の下で腕を組んで部屋の中を眺めた。
銀色の物体に空いた穴の中から突然現れた謎の少女――。外見は人間と変わらない姿だけど、頭にはゼリーみたいにプルプルと揺れるクラゲみたいな半透明のものを被っている。
髪は光沢のある鮮やかなピンク色。髪型は髪の両側を少量まとめて結い、残りの後ろ髪を垂らしたツーサイドアップで、長さは腰の下まであるスーパーロング。
服の代わりに着ているのは体にピッタリと密着している紺色のレオタード、もしくはワンピースタイプ水着のようなもの。露出したスラリと伸びる長い手足からスタイルの良さを伺わせる。
脚には膝上まである白色のオーバーニーソックスを着用し、両足は赤色と白色が際立つバイカラーのハーフブーツを履いていた。
少女の外見に注目していたわたしはそこでようやく気付く。ツーサイドアップにした少女のピンク髪とわたしの体に巻きついているピンクミミズは同じ色をしているのだ。
全身に絡みついているピンクミミズの元を辿っていくとその先は腕組みしている少女の髪に繋がって――いや、これは少女の髪が伸びているの……?
わたしと視線があった謎の少女は、足元の瓦礫を気にすることなくわたしの前まで歩いてきた。
「――よかった、怪我はしていないみたいね。……私の言葉、通じているわよね?」
少女の問い掛けに思わず頷くわたし。
この子……日本語を喋っているみたいだけど、一体何者なんだろう……?
わたしは少女が話す流暢な日本語に驚く。少女の正体が何にしろコミュニケーションは取れるみたいだ。
「
謎の少女は首元につけているチョーカーのようなものを指先でつつく。
「いや~、驚かせちゃってごめんね。宇宙船のトラブルで不時着する場所を探していたんだけど、嵐の中を飛んでいる時に機体に雷が直撃しちゃったの。そして、そのまま操縦不能になってここに着陸――もとい、墜落しちゃった訳」
ベラベラと話す少女の説明を聞いて、わたしは首を傾げる。
「う、宇宙船……? 今、宇宙船って言いました!?」
耳を疑ったわたしはピンクミミズに絡みつかれたまま一歩前に身を乗り出す。
「ええ、確かにそう言ったけど……宇宙船がどうかしたの?」
「う、嘘でしょ……本当に? いや、でもまさか――……」
頭の中で色んな考えがごちゃごちゃになって収拾がつかなくなり、わたしは頭を抱えようとしたが両腕にはピンクミミズが巻きついており手も動かせない。
全身に絡みつくピンクミミズを早く引き剥がしたいけど、目の前にいる少女の正体も気になる――……迷ったわたしは思い切って謎の少女に聞いてみた。
「あなたは、その……宇宙から来たんですか? まさか、本物の宇宙人……?」
「宇宙人? 宇宙人って言うと宇宙の人? そっちの表現より、異星人の方がしっくりくるわね。あなたの言う通り、宇宙からやって来たのは確かよ」
ほ、本当に……この少女は本当に本物の宇宙人なの? いや、でも待って……ドッキリという可能性もなくはないよね? もしかして、これって何かの企画?
わたしがあれこれと考えている間、自称宇宙人少女はわたしの姿を頭の上から足の先まで舐めるように観察していた。
「――あなた、私に興味があるの? よく見たら可愛い顔をしているし、触手の絡み具合を見ても相性が良さそうね。触手でもっと〝いやんいやん〟言わせてあげたいわ」
「しょ、職種……?」
わたしが首を傾げていると首筋に何か冷たいものが落ちてきて短い悲鳴を上げた。何事かと思って天井を見上げると、少女が宇宙船と言っていた銀色に輝く物体と天井に空いた穴の隙間から水が滴り落ちていることに気付く。
「……も、もしかして雨水?」
よく考えてみたら外は土砂降りの雨だった。宇宙船らしき物体は2階の屋根とわたしの部屋の天井を突き破り、床にめり込む形で止まっている。いくら突っ込んだ宇宙船が栓の代わりになっているとはいえ、屋根に空いた隙間からは雨水が流れ込んできているようだ。
「た、大変! このままじゃ部屋の中が濡れちゃう!」
部屋の中は落ちた天井や折れた柱、その他壊れた家の瓦礫が散乱して酷い有様だけど、ここにきて雨水まで流れ込んできたらこの部屋だけでなく1階にも被害が及ぶかも知れない。
自称宇宙人の正体を探るのは後回しにして、まずは宇宙船と屋根に空いた大穴を何とかするのが先だった。
自称宇宙人少女は腕組みしたまま、天井を見上げている。
「――大丈夫、壊したものは元通りにしてあげるわ」
自称宇宙人少女が自信満々に答えるとわたしの体に絡みついていたピンクミミズが拘束を緩めた。解かれたピンクミミズは長い体を一気に縮ませ、少女の髪に戻っていく。
わたしの体に絡みついていたピンクミミズは少女の髪で間違いないようだ。
わたしを解放した自称宇宙人少女は宇宙船に向かうと穴の縁に両手を掛ける。どうやらあれは宇宙船の出入り口らしい。
「――そこは危ないから、後ろに下がって」
わたしは少女に言われた通りに宇宙船から離れると、クローゼットの中にある空いたスペースに身を寄せた。
自称宇宙人の少女が穴の中に消えるとそれまで空いていた長方形の穴に蓋のようなものが現れて継ぎ目もなく完全に閉じると、続いて銀色に輝く宇宙船が細かく振動を始める。
宇宙船の振動は次第に大きくなり、わたしの部屋だけでなく家全体をガタガタと揺らし始めた。
家や部屋が保つのだろうかと心配になっていると今まで床にめり込んでいた宇宙船の先端がフワリと浮いて床から離れ、宇宙船は屋根に空いた穴から外側に向かってゆっくりと動き始める。
宇宙船が後退するたびにバキバキという嫌な音が天井裏から響き、瓦礫の一部や粉塵が床の上に降り注いだ。
突っ込んでいた床から浮上した宇宙船は天井に空いた大穴の中に消え、わたしがクローゼットの中から出てくるとロープで体を支えるように自称宇宙人の少女が天井の大穴から下りてきた。
よく見ると少女の体を支えていたのはロープではなく、数十本ものピンクミミズだった。ピンクミミズと化した髪の先端は天井裏の柱や
自称宇宙人少女が床に着地すると伸びていたピンクミミズは縮んで元のツーサイドアップに戻った。少女の髪はどういう仕組みになっているんだろう……?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます