七月七日

芹沢カモノハシ

七月七日

 帰り道、立ち寄ったここらでは大きめのショッピングモールで、子供連れの客が何やら集まって何かしているのを見かけた。催しでもやっているのかと近づいてみると、子供たちが細長く切られた色紙に何事かを書き、それを大きい笹の木のようなものに吊り下げようとしている。子供の身長では届かないようで、一生懸命に背伸びして手を伸ばしていたり、親に手伝ってもらったりして笹のより高い所へ飾ろうとしている。それを見て、ああそういえば今日は七夕だったか、と俺は思い至った。

 買い物の帰り道、レジでどうぞ、とにこりと笑いながら渡された短冊を手に持ちながらボーっと夜空を眺めていた。今日は随分と晴れた夏らしい陽気の日だったので、星も大分綺麗に見えている。短冊には何も書かなかった。幼いころは、祖母の家で親戚と共に、庭に生えていた笹に短冊を飾ったし、高校の最後の年に友人とふざけて買ってきた笹の枝に各々短冊を飾ったりした。どちらの時も、空はこんな風に星が瞬いていたな、と思い出し、少し懐かしくなる。

 昔この空を見ていた時は、短冊に将来の夢やら未来への希望やら、はたまた単なるくだらない願望なんかを目いっぱいに一文に詰めて、夜空の星まで願いが届くようにより高いところへ飾っていた。今は、短冊に書く願いすらも思い浮かばない。だが、それは決して夢のない人間だとか、社会につかれた現代人だとかということを意味しない。俺は、むしろとても前向きな思考で、この短冊に夢を預けない事にした。俺はもう自分の足で歩くことが出来る。無力だった子供時代ではなく、仕事をして自分の好きなように生きることが出来る。だからもう、俺は夢を誰かに預ける必要はないのだ。星に願いを込めて、ただ願いが叶うよう祈りながら待つだけの時間は終わったのだ。

 手に持っていた短冊を、くしゃりと握りつぶした。夜空に向けていた目を前に向けなおし、俺は自分の意志で、しっかりとした足取りで歩き出した。

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七月七日 芹沢カモノハシ @snow_rabbit

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