無垢なる鷹は爪を隠す



「ダイチー『純愛』ってー?」


「んー、とっても素晴らしい愛情だよー」


「ダイチー『まぐわう』デスカ?」


「……あー、うん、まぁ、仲良くするって意味かな……」


「ダイチー『不倫』はー?」


「…………既婚者とエッチな事することだよー?」


「Oh〜」


「おーう、じゃないわ!なんなんだこのドラマ!てか、選んでんだろエリー!」


「選んでないデスヨ〜。ピンときた知らない単語だけデスヨ〜」


「無意識の恥辱……!?」


 おいおいおい、おいおいおいおい!おいおい、おいおいおーい!おいおい!

 これがお茶の間に平然と流れているかつ、若者に大流行りだと!?SNSでバズってるだと!?完全にお昼にお煎餅食べながら見るもんだろ!?いや、夜の夜に見るもんって言われても驚かんぞ!?


「そんな事してないデス〜。だって本当に流行ってるから知りたいんですもん」


「盛大なドッキリの可能性は……」


「いや、私が言わなくても自分で調べて見てたじゃないデスカー」


「うっ、それはそうだけど、せめてもう解説はやめさせてくれ……おれのSAN値がバグりそう……いや、もう発狂しそうだ……」


「えー?ダメですよー!優里に頼んだけど、一話を見ただけでダイチに頼めっていわれたんですもんー!もー私にはダイチしかいないんですよー!助けてくださいヨー!」


 ……なるほど、事の発端は優里と。まぁ、気持ちは分かるから責めはしないよ。


「お願いします〜ダイチ〜」


「お、おい!寄りかかるんじゃない!」


 エリーがそう言って突然寄りかかってきたため、俺の左腕にはエリーの大きな大きな柔らか〜い風船がモニュッと乗りかかる。


 ちょっと、Do貞には刺激が強すぎますよエリーさん……


「うぅ……お願いしますヨー。これ観ないと学校での楽しみが減るんデスヨー」


「え、仲間はずれにされる、とかか……?」


「いえ、知識デス。知識欲デス。そして恋バナの為デス」


「即刻、帰りなさい」


「ヤーダーヤーダー!ヤーデースー!!!」


「カエレー」


「カエラナイー」


 こいつ……駄々のこね方が一昨日スーパーで見た子供と同じだぞ……


 でも、これは考え方を変えると俺のためにもなるんじゃないか?


 エリーはこのドラマを見る事により、日本での恋愛観を育み、学校での恋バナに役立てる(?)事が出来るし、俺は見れる気がしなかったドラマを完走できるし、恋愛観も養える……かもしれない、いやその点はこのドラマで養わなくてもいいのかもしれないけど。


 ……まぁ、Tシャツの襟元から覗くでっかい乳の渓谷にも免じて一緒に見るか。この子は本当に危機感が無さすぎる……


「はぁ……わかったわかった、ほら、四話みるぞー」


「ワーーイ!ダイチ最高っ!」


 うんうん。お兄ちゃんは妹(チガウ)に喜んでいただけて嬉しいよ……でも今日も推しの手作りご飯は無しかー。別に普通のことなんだけど、一度あの贅沢を知ってしまったら無いと少し、いやとても悲しい。


「てか、エリーは優里とかに連絡しとかなくていいの?」


「連絡デスカー?」


 エリーと優里さんは親同士が仲が良い幼い頃からの友人らしく、その縁もあり現在も同じマンションに住んでいるらしい。そして彼女は、日本に来たばかりのエリーが過ちを犯さないよう、夜間の外出時や外泊時などには連絡をさせるようにしているとの話を聞いたことがある。


 外泊はともかく外出までは、ちと大学生には少し厳しすぎんか?と思った事はあったが、その約束を守ったら優里がご飯を作ってくれるとのことでエリーも不満など一切なく、むしろ大満足なんだそうだ。


 確かに以前一度だけいただいたあの弁当の味は、今も時々欲してしまうような、言うなればお店レベル……いや、むしろそれ以上に美味しいものだった。


「今日は連絡はして来ましたよ?友達の家に泊まると」


「そう、それなら…………ん?」


「?」


「?」


「えーと……学校の友達?」


「ここですけど……え、もう10時ごろデスヨ?こんな時間から行きませんよさすがに……」


「俺がおかしいみたいになってる!?

 てか、なぜ泊まろうってなったの!?」


「え〜?やっぱり、お泊まり会は仲が深まるじゃ無いデスカ〜」


「なっ!?!?」


 そう言って俺を見る彼女の目はまるで、獲物に狙いを定めた肉食動物のようにギラギラしたものにみえた。


 俺は彼女のことをぶっ飛んでいる親しみやすい妹キャラだと思ってはいたが、どうやら俺は認識を誤っていたようだ。彼女は思っていたよりも随分と大人で、実は俺と最も遠い位置にいた女性なのかもしれない……

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