王女さまの憂鬱

第1話

「あなたとの婚約を破棄する!」


 王立学院、全校集会の会場で、フセインは婚約者である私を指さしながら宣言しました。

 私の名前はシュリ。ファン王国の王立学院在籍中の15才。背中まで伸びた黒髪を無造作に後ろで束ね紺の制服を着ています。スレンダーな体に控えめな胸。特注の銀縁眼鏡をかけています。

「それは結構ですけど、大丈夫なのでしょうか?」

「俺だって……こんな未来は考えて……いなかった!」

 涙声でそう叫ぶフセインの拳がフルフルと震えています。

「だが……もう限界なんだ!」

「そう。残念ですわ。お元気で。」

「さようなら……。」

 そういうと、フセインは体育館から走って出て行ってしまいました。


 私は、ファン王国国王の第二王女。シュリ・ド・ファンファンです。

 ”元”婚約者の彼は、サダム・ショミンネ男爵の長子で同級生です。いえ、でした……になると思います。

 あの感じでは、学院も退学するのでしょう。

 正直なところ、私には結婚する意思などございません。

 第二王女という恵まれた環境を手放すなど、愚の骨頂でございます。

 性欲を満たしたいのであれば、メイドがいくらでもおりますし、趣味の世界に没頭できれば、それ以上は望みません。

 そう、私は男性に魅力を感じないのです。



 私の趣味は、魔道具の開発です。

 複数の魔方式を組み合わせて、一つの芸術を作り上げる。

 そのために一生を捧げられるなら本望です。


 私の代表作はフライングボードです。

 サーフィンボードに着想を得て、空を駆けるボードを完成させたとき、私は至福の喜びを得ることができました。

 そのフライングボードは爆発的なヒットとなり、今では王国中の空を飛び交っています。

 亜種のハンドル付きのものや、荷台付きのものなど、まさに老若男女から愛された魔道具になっています。

 開発に苦労したのは、ボードと体を一体化した魔法で落下を抑止して、衝突防止の安全対策も完璧です。

 椅子・ハンドルをつけた老人・子供用も好評です。


 フライングボードのパテント料がありますので、十分独立できるのですが、蔵書庫の閲覧権限や各加工用具の利用など、王族としての特権は手放したくありません。


 学院は全寮制なので、現在の私は学生寮に入っていますが、干渉されない生活というのは何と快適なのでしょうか?

 しかも、私がフライングボードの開発者であることを知っている学友は、「あんなの作れない?」「こんなアイデアは?」と様々なヒントをくれるのです。

 一日が24時間なんて、誰が決めたのでしょう。私には、いくら時間があっても足りないのです。


 こんな私にとって、婚約者なんて煩わしいだけの存在です。

 そうなると、必然的に所謂塩対応になってしまうわけで、結果として耐えきれなくなった婚約者が昨日のような行動を起こすのです。


「あら、雨ですわね。」

 私は全天候型物理防御の魔道具を起動します。

 これも私のオリジナルで、戦闘用の物理防御障壁を体の表面から30センチ離すことで雨や雪を防御するのです。

 こちらも大ヒットしています。

 もちろん、水ハネや泥ハネも防いでくれるので便利です。


 そんな私ですが、時々気分転換に出かけます。

 自分用のフライングボードは、リミッターオフの特別仕様です。

 いつものように、スカートの下に短パンを履いて、ボードの下に迷彩スクリーンを展開した私は、最高速で海に出ます。

 時速にして300キロくらいでしょうか。シールドの効果で風は感じません。

 海に達した私は速度を落としてスクリーンやシールドをオフにします。

 潮風が髪を掻き揚げ、イルカたちと競争します。

 宙返りしたり、水面ギリギリを走って孤島の木陰で一休み。……至福のひとときです。



【あとがき】

 新シリーズです。自由奔放なお姫さまです。

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