悪役令嬢の憂鬱

悪役令嬢の憂鬱

「お前との婚約は破棄する!」


バカ王子は私を指さしながらのたまわりました。

はあ、私は頭を抱えた。


これで何回目だろう。

こいつの頭を開いてみてみたい。


「忘れたのかしら。

私と結婚しないと、あなたは次の王様にはなれないの」


これは舞踏会場の誰もが知る事実である。


「えっ……」


えっ、って、本当に忘れていたようなんで始末が悪い。

こんなのでも、顔だけはいいので、言い寄ってくる女は数知れず。

その都度コロリとたぶらかされて現在に至る。


「まったく、今度は誰なの?」


「オットー伯爵の次女」


「モットー伯爵でしょ。

ほら、帰るわよ」


王子は記憶を維持できない病気なのだ。

一年前の暑い日、馬車の事故以来になる。

それ以前のことはしっかり覚えているのに、この一年のことは一時間で忘れてしまう。


..元々は聡明な王子だった。

いずれ回復するだろうという淡い期待を込め、それまではフォローできるようにと私に英才教育が受けている。


貴族家の次女・三女にはそんな理屈はどうでもいい。

王子と結婚出来れば王族の一員として迎えられるのだ。


こうして、群がるハエを追い払いながら、私は悪戦苦闘を強いられている。

私は王子を愛している。

いつか病気が治った時には、よくやったなと頭を撫でてほしい。

そのためなら悪役にだってなんにだってなってやろうじゃないの!

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