第8話 規格外と姉弟喧嘩※

「好きです」


始めて会った時より少し低く、太くなった声で


「嬉子さん」


私の喉に舌を這わせながら幼かった少年が、甘い声で名前を呼んだ。


何故、弟と同級生で、弟同然だと思っていた男性に、押し倒され、服を脱がされているのか。

彼はモデルもしていたし、言い寄って来る女は数知れず、なのに。


「だめ、」


「ずっと好きでした、」


切ない声で呟くと私の唇を塞いだ。


あれから3年前課長と関係を持った以外、誰とも無いのにキスだけで躰が一気に火照り始めた。

でも、キスだけで、なんて…。

欲求不満だったのではないか、とちょっと心配になる。


「…ん、っ、…あぁっ」


何時の間にか一糸纏わぬ躰になっており、この躰を包むように誠一郎が抱きしめている。


『…駄目。彼は、弟の友達、なのに。』


筋張った手が私の胸を包むと、やわやわと揉み始め、その頂きを口に含んだ。


「ひゃぁ、っ、あ!っら、めぇ…」


「可愛いです。嬉子さん」


ウットリした声が耳に届き、誠一郎がちゅっちゅ、と優しく躰をキスして回る。

確かに気持ちは良い。

優しく、そして、愛おしそうに躰を触ってくれる。

それはとても嬉しい事だ。


『…だけど、この手は課長じゃない。課長はこんなに優しくなかった。ザツだけど、』


お酒だけで躰がこんなに動かなくなる訳が無い。

バーで飲んだが、2杯だけ。

あの飲んだ2杯のお酒に薬が入っていたに違いない。


自分の意志とは関係なく、抱かれる事に凄く悲しくなり、涙が溢れてくる。


好きです、と連呼しながら誠一郎がゆっくりと挿って来るのが分かり、思わず躰が強張った。

一線を超えるのが怖いのかもしれない。

強張る躰から一気に血の気が引く。


必死に抵抗しようとするが、力が入らずただ、頭を振る事しか出来ないでいた。


「ごめん、嬉子さん。俺のモノになって、」


ぐっと誠一郎が腰を進め奥に挿って来るが、その大きさに思わず息を止めてしまう。


泣きたくも無いのに、涙は止まらず、必死に頭を振り続けていると、案の定、脳が揺れて気持ち悪くなってくる。

頭はグラグラし、下は異常に熱くそして、痛い。


「ふぅっ、やめ、止め、てっ、せ、いいち、ろう、っっっ!はくっ!」


「え!?」


「ゆ、揺すらないっ!!!うっ!退いて!」


「嬉子さん!?」


「================」(自主規制)


「ぎゃーーー!嬉子さん!死なないで!」


気持ち悪さに限界が来た私は躰を横にして、吐けるだけ吐いた。




挿れているモノを抜いて私の上から退いて、と思いながら。









「ひっく、ひっく、…ごめんなさい、嬉子さん…」


「ん…、大丈夫。もう、落ち着いたし…」


服を着たイケメンが目の前で、女の子座りで泣いている。


『…泣きたいのは、コッチなんだけど。』


大量に吐いた後、誠一郎は慌ててフロントに電話をかけ、スタッフに片付けをして貰い、今に至る。

私もどうにかこうにかシャワーを浴び服を着替え、漸くベッドに腰掛けた処。


誠一郎は押しが弱い、いわば“へタレ”というヤツ。

多分、慶史に『姉貴をモノにした方が早い』など囃し立てられたに決まっている。


「…多分、いや、本当なら此処で怒らないといけないと思うんだけど、怒る気も無いの。誠一郎君の気持ちは凄く嬉しかったから。私が呑んだお酒にクスリを入れたでしょ?そんな事、やっちゃいけない事だよね?23歳にもなってそんな事、分からなかった?」


「ご、めんなさっい、」


「もうこんな事しない?」


「しませんっ」


「お願いね?ほら、そんな床に座ってないで椅子に座って、」


その時。

けたたましい音を立ててドアが開き、汗だくの慶史が入って来た。


『…来たな、主犯。』


「あっ、姉貴!大丈夫、かっ!?」


息荒く、私の側に駆け寄り額を触ったり指先が冷たくなってないか確認をする。

ひと通り触り異常がないと分かると


「心配掛けんなよ〜」


私の目の前に座り込んだ。


その安堵しきった姿が癪に障る。

誠一郎にも苛立つべきだとは分かっている。

しかし、目の前にいる弟の方に苛立ちが募り、私は思わず慶史を蹴り飛ばしていた。


私は慶史と喧嘩などした事が無い。

5歳も年が離れていたし、性別の違いもなのか慶史が優しかったからか喧嘩にならなかった。

だから、私が慶史に手をあげた事等一度も無いからか、慶史は何が起こったか理解出来ずにごろん、と転がり、そのまま動けずにいる。


「アンタでしょ!?誠一郎君に色々吹き込んで、酒にクスリ入れたの!」


「!?おまっ!喋ったのか!?」


「誠一郎君がそんな事言う訳ないでしょ!それくらいの事、私でも分かるわよ!いい!?これは犯罪よ!?分かってんの!?」


「分かってる!誠一郎の気持ちも成就させてやりたかったんだよ!それに、アイツの事忘れようとしねーから、ヤれば気持ちも動くと思って!」


「動くわけ無いでしょ!莫迦なんじゃないの!?」


「姉貴だった莫迦だろ!3年も前の事を引き摺って!何時まで経っても泣いてばっかで!見てられねーんだよ!」


「慶史には関係ない事でしょ!これは私の問題!」


「姉貴の問題かもしれねーけど、嫌なんだよ!姉貴が泣くの!」


「だからそれがお節介で迷惑って言うのよ!アンタの恋愛じゃないでしょ!?私は一切アンタの恋愛に口出しなんかした事無いわよ!?男同士だからって気持ち悪いだとか、変だとか、言った事ある!?一度だっていった事無いわよ!全く、偉そうに人の恋愛に口出してんじゃないわよ!少し見守るってのもしなさいよ!」


「っ!じゃぁ、何で、俺の処に来て毎回、泣くんだよ!こっちの迷惑も考えろ!莫迦姉貴!」


「莫迦で悪かったわね!何よシスコン!私の後追っかけてこっちまで出て来たくせに!」


完全に売り言葉に買い言葉。

喧嘩をした事の無い私達は、どこで区切りをつければいいのか分からずに、2人して今迄思っていた事を吐き出した。


「もういい!私帰る!金輪際私に顔見せないで!」


「ふん!金輪際店にも顔だすんじゃねーぞ!クソ姉貴!」


「「ばーーーか!」」


ふん、とお互いそっぽを向き、私はベッドから立ち上がった。


「嬉子さん、ごめんなさい!俺が、」


「誠一郎君も暫く顔見せないでくれる?」


そう言って私は誠一郎の横を通り過ぎようと、大股で歩き出したが。


「痛ぁーーーーっ!」


アソコに急激な痛みを感じて、その場にうずくまった。


クスリのせいで今迄感覚が無かったが、効果がキレたのと大股で歩いたのが原因でアソコの痛みが一気に押し寄せて来たのだ。


「あー、誠一郎の規格外だからな。やっぱり切れたのか?」


「結構血が出てた。思わず、嬉子さんの初めて貰ったようで、俺、嬉しくって」


両手で顔を隠して喜ぶ誠一郎に私は手に持っていたルイ・ビトンを彼目掛けて投げつけていた。

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