君が死ねば世界は幸せだ

璃志葉 孤槍

第1話 雨の日のこと

 それは五月蝿いくらいに降りしきる、雨の日の出来事だった。


「君が死ねば世界は幸せだ」


 座って本を読んでいた僕は、そう呟いた。隣に座っていた女の子がその言葉に反応する。


「何よ、私に死ねって言うの?」


 言葉とは裏腹に笑顔な彼女だ。まるでその先の言葉を待っているかのように。


「最近読んだ小説でね、登場人物が問うんだ。『君が死ねば世界は幸せだ。……さあ、どうする?』って。君ならどうする?」


 彼女は茶色い長髪を弄りながら答えた。


「私なら、死なないわ」


 まあ、彼女ならそう答えるだろうとは思っていた。一応僕は、理由も聞いてみた。


「なんで?」

「私が今死んだら私は幸せじゃないもの。それで世界が幸せになったって、虚しいだけじゃない。それに……」


 彼女はゆっくりと僕の足に目を落とし、微笑んだ。


「キミのお世話をずっとしていたいもの」


 ああ、と僕も自分の足に目を落とした。もう二度と、動かない足に。

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