第2話 絶望風景

「絶望風景」


八月

最後の週末

荒れ果てた夜道を急いでいた

雨上がりの道

湿った空気

草の生い茂った闇

何もかも

不安で不快だった

それでもこの道は

夜の海に繋がっているはずだ

夜風が心地よくて

漁火がきれいな海

君と語り合った海

それだけを

そんな記憶だけを追いかけて

先の見えない道を歩いていた

ただ歩くことしかできなかった


去年の今頃も辛いと思っていた

嫌なことばかりが続いていた

嫌な人ばかりと巡り合った

それでも

帰る家があった

話し合う家族がいた

それから毎朝仕事に出かけて

週末を楽しみにしていた

そんな人並みの小さな幸せを捨て去ったのは

いや

そんな小さな幸せにさえ感謝できなかったのは

まったく愚かだった自分のせいだ


それがどうだい

今はこの有様で

北から戻った日には

女と話をして

女に頭を下げて

惨めで卑屈なお願いをすることにした

女が小さなアパートで待っていて

これまで見たことのない暗い表情で

僕を侮蔑していた

女が小さな椅子に腰掛けていて

これまで聞いたことのないような激しい声で

僕を嫌悪した

それが僕の

絶望風景


気がつけばもう秋の夜

こんな都会の蒸し暑い風にのって

虫の声がした


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