美少女後輩が嫌みったらしく「先輩に彼女ができますように」と短冊に書いたので、僕も「後輩に彼氏ができますように」と書いたら、後輩が願いを叶える方法を訊いてきた。
つちのこうや
七夕
七夕。というのはとても素晴らしい時期だ。
なぜかと言えば、七夕云々は詳しくはないけど、とにかく7月7日といえば、期末テストが終わったばっかりの時。
そして後はだらだらとした半日の授業が続き、そしていよいよ夏休みというわけだ。
後に神なことしか控えていない、実に神々しい時期なのである。
そんな神々しい時期の午後は、全部部活だ。
パズル研究会に属している僕も、部室でのんびりとパズルを作ることができる。
と思いきやそんなできないんだけどね。
「先輩先輩。神パズルできました!」
相変わらず神パズルの基準が低い後輩が、そう話しかけてきたりするからだ。
「お、よかったな」
「やっみてください先輩!」
「いいよ」
僕は後輩からパズルを受け取る。
数字系のパズルだった。
一応そこそこ経験は積んでいるはずなので、今までにやった似たパズルなどの記憶も駆使して、十分程で完答した。
「できたよ」
「え? は、はや⁈ あ、諦めましたね先輩!」
後輩はそう疑いながら僕から紙を受け取る。
「せいかい……。うう、神パズルかと思ったのに」
「面白かったよ」
「うそっ! だってあっさり解いたじゃん」
まあそれはそうだけど実際面白かったのもそうなんだよな。
ちょっとご機嫌斜めの後輩が椅子をぐいーんと引いたタイミングで。
部室の扉が叩かれた。
「はいはい」
扉に近かった僕が開けると、
「こんにちは! もうすぐ七夕ですね! というわけで笹を差し上げます! 笹配り同好会でした〜」
見知らぬ女の子がテンション高めに話してきて、そしていつの間にか部室の入り口には笹が立てかけてあった。
「笹、もらったけど」
「あー、笹配り同好会ですね。会員二十人くらいいますよ」
「え? ほんとにあんの? 笹配り同好会」
「今来たじゃないですか」
「いやまあ。でも、会員二十人⁈ パズル研究会は会員二人なのに?」
「そうですね。まあそういうこともあります」
まじかあ。
ま、僕は別に二人でもいいんだけどね。
そう思いつつ、改めて笹を眺める。
そうか。七夕って、笹に短冊かけたりしたなあ。
☆ ○ ☆
「というわけでせっかく笹をもらったので、短冊をかけます」
「うん、そうしよう」
「さて何書こうかなあ……あ、私、ちょっと思ったので訊きたいんですけど」
「おお」
「先輩、彼女、できたのかなあと」
「え、なんで今?」
「それはだってですね、先輩にいつもお世話になっているので、先輩に関する願い事を書こうかと」
「いやいい、いいよそれは」
「そんな遠慮しなくても、もうどうせ先輩に彼女がいないのは知ってますので」
「うわあ……」
「というわけで先輩に彼女ができますようにって書いてあげましょうかねえ」
にやにやしながら後輩はペンを動かす。
仕方ない、こっちからも攻撃するしかないな。
「そういう菜子は彼氏いるの?」
「あ、え、い、いないですよ! ふん」
「ほいほい、そうなれば、僕も短冊に、後輩が彼氏ができますようにって書いてあげようかねえ」
「ムカつく」
「お返ししただけなんけどな」
こうして雑に願い事を決めた僕たちは、短冊ということにしている細長く切った紙に、願い事を書き始めた。
「できました」
『先輩に、彼女ができて、いちゃいちゃで幸せになりますように』
『後輩に彼氏ができて、楽しい日々を過ごせますように』
「では、飾りましょう。先輩、穴あけパンチありますか?」
「ある……と思う。確か……ここだな」
僕は机の下の箱から穴あけパンチを出した。
そして短冊の上に穴を開け、紐を通し、さらにその紐で笹に結ぶ。
「飾れました。きっとお願いごと、叶います」
「だといいな」
こうして七夕のイベントも満喫してしばらく。
「菜子、暇な時でいいから、僕が作ったパズル、解いてみて欲しいな」
「お、新作できたんですか?」
「今できた」
「わかりました。じゃあ今暇なんでやります」
菜子は僕から紙を受け取り、解き始めた。
☆ ○ ☆
「できた!」
後輩がシャーペンを置いて、紙を僕の方に向けて持ってにこにこしている。
ちなみにパズルを始めてからの経過時間は二時間半くらい。
もう外が暗い。
「粘ったな」
「だって悔しいですもん解けないと。でも解けたから、嬉しいです。すみませんこんな遅くなって」
「いや遅くなるのは気にしなくて大丈夫だよ。じゃあ、帰りますか」
「はい」
僕と後輩は、笹の短冊を一度見た後、部室を出た。
「星がいっぱいです。織姫と彦星も見えますかね」
「彦星と織姫は……まだ東の空だと思うよ」
「じゃああっちですかね……建物も街の灯りもあるからちょっと見えにくいけど」
「だな」
後輩と僕はしばらくの間、東の空を眺め、無言で歩いた。
「……先輩、問題出していいですか?」
「うん」
二人のそれぞれその家への別れ道よりも少し手前。
後輩は歩くスピードを緩めて、そう言った。
「では問題。先輩と私の願いを叶える最短手はなんでしょう?」
「最短手? ……そりゃあ、僕と菜子が付き合うことじゃないの?」
「……」
「……あれ? 違った?」
「いえ、合ってるんですけど…………もう少し、恥ずかしがって欲しかったなって」
「……」
「先輩は、いつも、私が考えた問題は、全部、すぐ解いちゃいます」
「……割と恥ずかしかったよ」
「え? そうなんですか?」
「うん。恥ずかしいから、さっさと言った」
僕は後輩を見つめた。
「ということは……いえ、私から言いたいです。あの、私、先輩が、好きなので」
「そうか。僕も好きだよ。菜子が」
「ほんとですか?」
「ほんと。少しでも長く一緒に入れたらなって思って、難しいパズル出すくらいには」
「……そうなんですね。私も、わざとゆっくり解いちゃうくらい、先輩と一緒にいたいと思っています」
「わざとゆっくり解いてたの?」
「はい、もちろん。三十分くらいでもうわかってました」
「……」
「あれ? 先輩、もしかして早く解かれたの悔しがってますか?」
「いや」
僕はそう返して、空を見上げた。
東の空には、よく見ればちゃんと、明るい星があった。
七夕の夜。
願い事があっという間にかなってしまった二人は、いつもより少しくっついて、別れ道の前で立ち止まっていた。
次に会えるのは一年後ではなく、一日後だっていうのに。
美少女後輩が嫌みったらしく「先輩に彼女ができますように」と短冊に書いたので、僕も「後輩に彼氏ができますように」と書いたら、後輩が願いを叶える方法を訊いてきた。 つちのこうや @tunyoro
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