綾の独白
学内掲示板を見にいこうとしていると、猿渡先輩と俊くんが仲よさげに話しているのを見た。後輩たちから慕われているあの人。どうも私はあの人が苦手だ。初めて会ったとき、怖いって思った。なんでだか分からないけど。
話してみると、言葉も荒いし、やっぱり怖かった。悪い人じゃないんだろうとは思うんだけどね。俊くんはあの人と話す時は、私や直樹、それと「あの人」とのそれと違う顔を見せる。それがなんだか嫌なの。
嫉妬なんかじゃないわ。そりゃあそうでしょ。そういう対象じゃないもの。でも苦手なものは苦手なの。
2回生になって、私にも後輩たちができた。でも、私は猿渡先輩みたいにはなれない。明るくて快活なあの人。あんな風に振る舞うのは私には無理なの。「後輩」ってポジションが私は好き。気が楽だし、誰かに頼られるなんてまっぴらごめんだわ。
高校生のときは、手芸部に入っていた。先輩たちに可愛い小物の作り方を教えてもらったっけ。
「後輩にも伝えてね」
なんて言われたけれど、私はそれができなかった。後輩ができて、彼女たちから質問されてもうまく応えられなかった。そんな私に、先輩たちは軽い苦言を呈してきた。悲しかったわ。できるならやりたいのに、できないだけなのだもの。
少しずつ部活をサボるようになったけれど「先輩」がいる間はちょくちょく部室に顔を出した。
でも。
私が最高学年になったら、もうそこには行かなくなった。頼れる人がいるのが私は安心なのよ。
あの明朗な性格の猿渡先輩。私もあんな風になれるものなら……いや、なりたくはないわね。
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