日常。
綾との付き合いが始まって一週間。正確に言えば、想いを告げてから一週間だ。
俊と綾はほぼ毎日のようにでかけていた。校内でも共にいることが多い。
俊が沙耶と別れたことは、皆なんとなく察知しているようだが、余りそのあたりの話題は今のところ避けているようだ。
見れば分かる、といったところだろう。
今日はふたりで映画を観にいくことにした。
特になにを観ると決めていたわけではなく、面白そうなのがあればそれをみようという予定だった。
映画館では4つのホールがあり、恋愛映画にサスペンス、ホラーなどもあるようだった。
「綾、なに観たい?」
俊は優柔不断な
「わたし、恋愛映画がいいなー」
綾がそう言った。正直、綾が提案した映画は俊にとっては余り興味のないジャンルだった。しかし、他のどれがいいかとも決められない。
「じゃ、それにするか」
そういって俊はチケットを2枚買った。
映画の時間は割りとぎりぎりで、二人が席に座ってまもなく本編前の予告ムービーが始まった。
ふと、沙耶との時を思い出した。
沙耶はこんなとき、俊に任せる、と言っていた。当然、俊は迷う。すると大抵沙耶が助け舟を出していた。
「この映画、ラストのどんでん返しがいいらしいわよ」
などや
「主人公が囚われたときの脱出シーンが話題なんだって」
といった風に。
それは大抵俊の好みに合っていて、映画を観終わったあとは喫茶店でお互い楽しく感想を述べ合っていた。
―いかん、いかん。
俊は我に帰った。デート中に前の彼女のことなど思い出すなんて。
スクリーンには、最近よくテレビで見かける俳優が、女優に愛を語っていた。両方とも顔は覚えてはいるが、名前が出てこない。
甘い言葉を囁く俳優をうっとりと眺める女優。はて、このふたりの役の名前はなんだっただろうか。
序盤から退屈なシーンが続いていたので、ぼんやりと眺めていたため今ひとつ内容をつかめていない。そっと横を見ると、綾がきらきらとした目でスクリーンを見つめていた。
「ま、いっか」
俊はいつの間にか眠っていた。
「俊君、寝ちゃうんだもん。やだなぁ~」
綾がそういったのはとある喫茶店。もちろん、綾のリクエストの店だ。なにやら、パンケーキが人気らしい。
「最後の主人公の台詞、俊君に聞いてほしかったなぁ」
と、少し拗ねた顔で綾が言う。
「どんな台詞だったの?」
「教えないもん」
綾はふくれっつらでパンケーキを一切れ口に入れた。
ご機嫌を損ねてしまったようだ。どうしたものやらと思っていたら、ふくれっつらから一転、ニコニコした笑顔で綾が言った。
「今度はさ、おうちデートしようよ。俊君の好きなご飯、作ってあげるよ」
―お、おうちデート!!
「好きなご飯」も魅力的だが、別の「ご馳走」もいただけるかもしれない。
思わず顔がにやけそうになったが、そこはこらえて言った。
「なんでもいいよ、綾が得意な料理作ってほしいな」
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