第78話 いないいないばあ
美咲さんは子どもを産んでから忙しい日々を過ごしていた。赤子というものは大人の事情などは知ったことではない。時を選ばずミルクを求め、おむつが濡れたと泣く。昼食を作っている最中であっても、それは当然変わらない。
新婚生活の甘い時間は終わり、子育てに
子どもが生後6ヶ月にもなるころには、そんな日々にも慣れ、あやすと笑う子どもの顔に日々の疲れも吹き飛んでいた。
おもちゃを目の前で振るとなにやらごにょごにょと言いながら笑う。そんな姿が愛おしいと感じていた。
一番お気に召したようなのは、定番の「いないいないばあ」。なぜそんなことが面白いのか、嬉しそうに声をあげて笑う。
ある日も「いないいないばあ」であやしていた。
「いないいない……ばあ!」
「きゃはははは」
身を
何度目かのそれのとき。
「いないいない……」
続きの「ばあ」を言って隠した顔を覗かせようとした瞬間。
「ばあ!!」
突然、目の前に現れた幼稚園くらいの子ども。その子が嬉しそうな声でそう言って消えた。
あまりの驚きに硬直した美咲さん。息が止まるような心地から、ふっと息を吐いたとき、力が抜けて気を失った。
気がついたのは子どもの泣き声で。気づくと離乳食を与える時間になっていた。
「いないいないばあ」はそれからも続けたが、指を開いて前が見えるようにし、顔を完全に隠すのは止めたという。
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