第34話 わりといいやつ

 真一さんが友人の保さんのアパートを訪ねたときの話。

 

 そのアパートは駅から徒歩で5分ほどのところにあり、コンビニやスーパーも近所にあるとても住みやすそうなところだった。

 学生だったふたりには普通なら手が出せそうにない物件にみえたそうだ。

 

 手土産にコンビニで酒とつまみを買い、アパートに着いた。

 築年もそれほど古そうには見えない建物に入っていき、保さんの部屋のチャイムを押すと、すぐに彼がでてきた。

「よ! まぁ、はいれよ」

 保さんはそう笑顔で出迎え、部屋に通してくれた。

 

 中に入ると10畳ほどのフローリングの部屋。隣には別の部屋もありそうだ。学生の一人暮らしには贅沢なくらいの部屋だった。

「へええ。いい部屋じゃん。高いんじゃないの?」

「いや、大丈夫。すげぇ安い。事故物件だからね」

「へあああ!?」

「以前住んでたのが夫婦だったらしいんだけど、夫のほうが奥さんを殺したんだってさ」

 隣の住人にみかんを分けてもらってね、とでも言いそうな口調で保さんは答えた。


 帰りたくなった真一さんだったが、友人のそんな様子を見ていると帰るとも言えず、ひとまず手土産を渡した。

 保さんがあらかじめ頼んでいたピザがコタツの真ん中にあり、ふたりはそこに着座した。しばらく話しながら飲んでいると、どこからともなくピシッ、パキッという音がする。

 ああ、これはもしかして。

 真一さんが聞くと、

「ああ、ラップ音だね」

 と特に表情も変えずに保さんは答える。

「へあああ!?」

「大丈夫、大丈夫。わりといいやつだから」

「いいやつってなんだよ、それは」

「慣れるといいやつだよ、わりとね」

 そう言って笑いながら保さんは近況とこの部屋について話してくれた。


 なんでも様々な現象が起きるらしい。

「夜に遅くなって部屋に帰ったらさ、明かりがついてるんだよ」

「消し忘れたんだろう、それは」

「いや、『もうすぐ部屋だなぁ』と思って部屋を見たらな、パッて明かりがついたんだ」

「へぇえ……」

「逆もあるんだよ」

「逆?」

「明かりをつけっ放しで部屋を出たら、帰ってきたら消えてるんだ」

「それは……」

 そう言いかけた真一さんだったが否定されるだろうと言葉をのみこんだ。

「コンビニいくつもりで電気をつけっぱなしにして部屋を出たんだ」

「うん……」

「やっぱ、ファミレスにでも行こうかと思ってね。電気をつけっぱなしはもったいないなって思ったんだよな」

「ああ、そだね」

「で、部屋のほうを見たらパッて明かりが消えたんだよ」

「へぇ……」

「まあ、いいことばかりでもなくてさ。茶碗がいきなり割れたりとかさ」

「うん……」


 その後、さまざまな現象を話して聞かせる保さん。

「まあ、でも夜に帰ってきて明かりがついてると助かるよね」

「うん……」

 

 その後、泊まっていけと言う保さんの誘いを固辞して、真一さんは終電に駆け込んだ。

 友人は満足しているようだが自分には無理だ、と真一さんは思ったのだ。

 それにしても、

「彼女ができたらどう説明したらいいの悩んでるんだよなぁ」

 という保さんの言葉にはどこからどうつっこんでいいのか真一さんは困った。

 

 保さんは不可思議な共同生活を今も楽しんでいるらしい。

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