【短編】親友である幼馴染を好きになるわけがない!
脇岡こなつ(旧)ダブリューオーシー
親友である幼馴染を好きになるわけがない!
『幼馴染』と一緒にいると、周りはいつも口を揃えて聞いてくることがあるのだが、はっきり言って『それはあり得ない』と断言できる。
『付き合ってるの? 二人って』
『……仲良さげだけどやっぱりできてるの?』
人の恋路に余程興味があるのか執拗に聞いてくる、クラスメイトたち。
女子たちはおそらく恋バナが好きでキャーキャー言いたいためにそう聞いていて、男子たちはきっと単純に俺の幼馴染である——
……ほんと、美少女な幼馴染をもつと困るな。
別に俺と葉月との関係はそんなんじゃないってのに。
負けん気溢れる男勝りな性格をしているのが唯一の難点だが、顔だけで言えば長年一緒にいる俺から見ても美少女と言えるのは納得できる。
ボブカットの黒髪に、濁りのない透き通った瞳。小柄で、スタイルも良く男子からの人気はそこそこ。
学年で一番の美少女とまではいかないものの、『あっ。この子可愛い』と男子の8、9割が呟くくらいの可愛さだ。
だからか何なのか、男子からは『いいなぁ〜葉月ちゃんと幼馴染でお前は』なんて良く言われる。
たしかに、俺は葉月と幼馴染でよかったと心の底から思えている。幼い頃から一緒に居続けたため、お互いの良いところ、悪いところ全てを熟知しあえた関係性。
まさしく、俺と葉月との関係性は親友というほかにないだろう。
その点においては、ホントに葉月とは幼馴染になれてよかったよ。
けど、俺は『幼馴染でいいなぁ』という羨望の眼差しや『付き合ってんでしょ?』みたいなノリがあまり好きではない。
俺と葉月は親友であって恋人じゃない。だというのに、周りはチヤホヤと捲し立てる。
うざいこと極まりないだろ? しかも、何度言ってもこいつら《クラスメイト》は聞く耳を持たない。
葉月を恋愛対象に見るのは不可能だってのに。
長く、ずっと一緒にいたからこそ実の兄妹の様な関係の俺と葉月。
たとえ身体が触れようともドキドキしないし、好きになるなんてないはずなんだよ……。
よく幼馴染と付き合ったり、ラブコメしたりする展開を創作物でみるが、俺は見るたびにあり得ないよなぁと一蹴してしまう。
葉月が幼馴染でなかったなら、俺はきっと葉月を恋愛対象に見れたんだろうがな。
まぁ、とにかく何が言いたいのかっていうと俺が葉月と付き合うことなんてありえないということだ。
だから、周りはいい加減それを分かれっ! っていう俺の愚痴である。
♦︎♢♦︎
「……はぁ。もういい加減分かってくれって感じだよな。俺とお前は親友! って感じなのに」
「ほんとだよね。私も、もううんざりって感じ(この関係性がね)」
「だよなぁ。はぁ、一体どうしたらあいつらはわかってくれんだか」
「ねぇ? どうしたら(翔斗は)わかってくれるんだろ。こうやって、私たちが一緒に帰るのをやめてみる……とか?」
ある日の放課後。いつも通りと言わんばかりに俺と葉月は帰途についていた。
斜陽の夕日に向かって二人並んで住宅街を歩いていく。
「……それは何か嫌だな。もう一緒に帰るのは日課みたいなとこあるし」
葉月の隣は落ち着く。いつも一緒にいたからかなのか安心感がすごい。葉月の前だと素の自分でいられるのだ。しかも、周りの目を気にしなくていい。
その居場所が心地よかったから、葉月と一緒に帰らないのは嫌で仕方がなかった。
「はぁ……じゃあどうするの? このままだと私たちが付き合ってる誤解解けないよ?」
「そうだよなぁ、どうにかしないと……って、またその顔……。ほんと。黙ってるけど何かあったろ? ここ最近、ずっと辛そうな顔してるぞ?」
葉月は数日前から辛そうな表情を浮かべている。周りのやつは気づいてないみたいだが、俺にはわかる。長年ずっと一緒にいたんだ。
幼馴染である親友の機微な変化は見逃さない。
「……やっぱり分かっちゃうんだ?」
「お互いにな」
俺も辛いことがあったとき、葉月だけにバレてしまったことがある。確か中学の頃の話だ。
部活の団体戦で負けて、皆にへっちゃらそうに振る舞ってたのに、葉月にだけはお見通しだったらしい。あの時は何も言わずに優しく抱きしめてくれた。情けなく泣き喚いたな、あの時は。
そんな懐かしい思い出に
「で、何があったんだよ?」
「……翔斗。あのさ」
突如、隣を歩いていた葉月の歩みが止まる。
それに気づいて振り返ると、そこには真剣そうな表情を浮かべる葉月。
その表情は、どこか辛そうでだけど真剣で。
何か只事ではない気がしてならなかった。
ゴクリ、と生唾を呑んで俺は葉月を見据える。
数秒間沈黙が続くと、ふぅと一つ息を吐いて葉月は沈黙をやぶった。
「……実はね。私、好きな人がいるの。だから私……もう親友の貴方と一緒にいることはできない」
「……っ!?」
思わずはっと息を呑む。一瞬、葉月が何を言っているのか理解できなかった。
……す、好きな人がいるって言ったか?
俺が戸惑っていると、そんな俺の胸中の考えを悟ったのか——
「うん。言ったよ」
静かに強く頷いた葉月は渋々と言った感じで続ける。
「だ、だから……さよなら」
「——お、おい。ちょ、ちょっと待」
俺の言葉を無視して踵を返し、懸命に走り出す葉月。
……いや、そっち家の反対方向だろ??
葉月と家が隣同士な俺は思わず突っ込んでため息をついた。
それにしても、葉月のやつ。好きな人いたのか。知らなかった……一体どんなやつだろ。
そんな気持ちを抱えながら、帰路を辿っていった。
♦︎♢♦︎
「もうっ。翔斗のバカ。そ、そう思わない?」
「あはは。拗らせてるなぁ」
翔斗と別れた後、私は仲が良い友達—美優を誘ってファミレスに来ていた。
大盛りポテトをやけ食いしている私を若干引きながら見やる美優は『で、でも』と続ける。
「押してダメなら引いてみろって言うし、その奥村君もきっと葉月の魅力に気づくと思うよ?」
「だといいんだけどね? ムシャムシャ。翔斗。私のこと。ムシャムシャ。親友、幼馴染としてしか見てないからムシャムシャ。私はずっと前から好きなのに」
「うん。とりあえず喋りながらポテト食べるのやめようね? 葉月。そういうとこだよ?」
「どういうこと?」
私が小首を傾げると、やれやれと言わんばかりに美優は両手をあげた。
一体、私のどこがいけないというのだ。
大体、翔斗のやつ……私と離れたくないといった素振りを見せておきながら、それは親友で居心地が良いからとか真顔で抜かすんだから。
私の気持ちになって欲しい。親友を押しつけられる私の身になって欲しい。幼馴染を押しつけられる身になって欲しい。
周りの人達の『付き合ってるの? 二人』というしつこいこれも私としては続いて欲しい。
いいぞ、もっとやれ! って感じだ。翔斗は心底嫌そうにしていたけど。
あぁ……翔斗のバカ、むかつく!
私が不快な表情になっていくと、美優はまぁまぁとなだめながら口を開いた。
「ま、まぁ。とりあえず奥村君に素っ気なくしていくのは私としてはありだと思うよ。きっと『お前がいなくなって気づいたんだ、お前の大切さに』みたくなってくるよ」
「ほ、ほんとっ!?」
「う、うん」
私が身を乗り出して言うと引き攣った笑みを浮かべながら頷く美優。
テンションが上がった私は、美優に感謝すると同時に。
「何でも頼んでいいよ! 私、テンション上がってきたから!」
ケチャップを口元につけたまま、私が言うと美優はボソッと呟く。
「翔斗くんのことになると、相変わらずちょろいなぁ、葉月」
全部聞こえてるよ? 美優、こら。
私は頬をぷっくら膨らませた。
♦︎♢♦︎
家に着き、リビングに入ると俺はそわそわとし続ける。
「……あぁ。やばい、何か気になって仕方ない!」
「どったの?
俺が頭を乱雑に掻きながら、落ち着きのない行動をとっていると2階から1階へと降りてきた我が妹、
「なぁ、聞いてくれよ。雪菜〜。葉月に好きな人できたんだとよ。どんな奴か知りたくてたまらなくてよ〜」
「あーーなるほど。大まかな事情は理解したけど、翔兄って葉月ちゃんのこと好きだっけ?」
「幼馴染……いや、親友としてなら大好きだ!」
俺は妹の質問に対して即答する。すると、妹は『あちゃ〜』と言わんばかりに額に手をついた。
「こりゃ苦労するな〜。葉月ちゃんは」
「……なんで葉月が苦労するんだ?」
「そういうことだよ? 翔兄」
何故かジト目を向けられる。この顔は俺を非難する顔だ。俺何か悪いことしたか?
「まっ。翔兄も覚悟するんだね」
「……何をだよ」
「心臓にドガーンと大穴開けられることを」
雪菜は手をピストルの形にして、俺をバンっと打ってくる。
え、死亡フラグですか? これは。
笑えなくなった俺であった。
♦︎♢♦︎
翌日の学校にて。
何故だか、葉月は俺に対してめっぽう冷たくなった。
『葉月〜。ノート見せてくれ〜』
『……知らない。他の人に頼めば?』
え、何その反応は。明らかなる拒絶。不快な表情だと俊敏に悟った俺は驚かざるを得ない。
……ま、まさか。この塩対応も全ては好きな人のせいなのか。
俺は思わずうなだれた。
これは、昼休みでの出来事である。
『葉月〜。今日、食堂なんだけどついでだし一緒にいくか?』
『……私、今日は食堂だけど貴方とは行かない。行きたくない』
がびーん。親友の幼馴染が俺を嫌いすぎてる件について。
えーと、昨日から態度急変しすぎじゃないですか? 葉月さん。
思わず、周りの奴らも——
『おい。あの赤城さんが奥村と衝突してるぜ?』
『あの怒り様、絶対嫌がってるのにエッチなことしようとしたんだわ、奥村……許すまじ』
いや、あの冤罪なんですが泣
その人を殺すと言わんばかりに敵意のこもった視線はや、やめてくれぇぇぇ。
これは、放課後の出来事である。
『一緒に帰らない? 葉月』
『昨日言ったよね? もう貴方とは帰らないって』
昇格口前で俺が玉砕して灰と化すと、それを見ていた周りの奴らは———
『今日、奥村のやつずっと赤城さんに避けられてたのに、な。あのメンタルだけは見習いたいぜ』
『ふふっ。あんなに昇降口前でそわそわしてたのに、奥村君、かわいそう。だけどうける……ぷっ』
いやぁ、とりあえず一言。お前らぶん殴っていいか?
♦︎♢♦︎
それからというもの、この幼馴染の拒絶週間が続いた。俺との関係を断ちたいと言わんばかりに俺をあしらい、他の男子や女子には明るく振る舞う葉月。
なんだか……すげぇモヤモヤする! こうなったら、無理にでも何故俺を拒絶するのか問いただして……いや、でもなぁ。俺が何をしたか、葉月を問いただしても葉月は適当にあしらってくるだけだったしなぁ。
(〜カァーカァーカァー)
茜色の空の下、今日も今日とてカラスの鳴き声が耳に反響する中で俺は一人帰路を辿っていく。
いつもの帰り道。いつもの日常。
その中に、葉月がいない。何故か俺は胸がキュッと締め付けられた。
それに、葉月のやつ。ここ1週間で急にナチュラルレベルだけどメイクとかしておめかししてるし……なんていうか、綺麗に見えるというか。
「あぁ、何で俺がこうも葉月のことで悩まないといけないんだ!」
「……ずいぶん、追い詰められてるみたいね」
背後から見知った人物の声がする。かったるそうに振り返るとやはりというべきか想定していた人物であった。
「……何だよ。高石」
「そ、そんなに露骨に嫌そうな顔しなくても、ね?」
腰まで伸びきった黒髪を靡かせる彼女は、高石美優。学校では葉月といつも一緒にいるイメージが強い。
親友の取り合い合戦ということもあって、俺と高石は基本的に
そんな高石が俺に何の用であろうか。
まさか『もう……貴方の親友、葉月は私のものよ』とご丁寧に自慢しにきたのだろうか。
「はぁ。引き返してもろて」
「いや、まだ何も言ってないんだけど!?」
「俺、あいにく暇じゃないからな」
「よくいうわ、文化部で実質帰宅部のくせに」
「俺の部活時代は、中学でとまってるからな!」
「いや、胸張っていうことじゃないし!」
「まぁ、それはそうとして……何の用だ?」
「はぁ。やっと、ね。貴方、葉月のこと気になってる感じ?」
ふむ。やはり、自慢しに来た様だ。
「……帰る」
「いや、私はあくまで貴方の力になろうとね!?」
うるさい……。もう俺は今、妹の雪菜に慰めてもらわないとやっていけないんだ。
止めるな、俺を!
俺の歩みが止まらないのを見た、高石は何を思い立ったのか『そ、そうだ!』と人差し指をピンとたてる。
「貴方、たしかフライドポテト好きだったでしょう? 奢る! ファミレスで奢ってあげるから! それに貴方の愚痴というか悩みも聞く! これでどう?」
「……あっ。ご、ごほん。それならし、仕方ない」
金欠気味な俺にとって奢りの話は食いつくなという方が無理な話であった。俺の態度の豹変ぶりを見た高石は———
「奥村も、ちょろいなぁ」
とか、ぼやいてやがった。まぁ、ポテト奢りなら許す!
♦︎♢♦︎
「あぁ、葉月のわからずや! なんで俺を拒絶するんだよ。そう思わないか? 高石」
「あはは。何かデジャブだなぁ〜」
俺は高石と4人席のテーブルに向かい合う形で座っていた。
盛り盛りポテトを頬張る俺を見やる、高石は何か一人でぶつぶつと言っている。
俺はそんな高石を無視して愚痴を始める。
「いやぁ、何かな。最近、ムシャムシャ。葉月のやつ素っ気なくなってな。ムシャムシャ。何でこうも、俺が……ムシャムシャ。それで悩まないといけないのか分からなくてな」
「うん。取り敢えずポテト食べながら喋るのやめようね? 奥村」
「あぁ……すまん。感情に身を任せてた」
「はぁ。まあいいけど。それで、奥村的に……そのモヤモヤっとした感情はどう捉えてる訳?」
「あれだな。多分だけど友達取られたぁっていう奴の上位互換」
そこに何故かしら葉月が可愛く見えたというのがあるがここでは黙っておく。
「まっ。これまでから見れば大きな一歩か。その感情忘れずに模索してれば、きっとどうすればいいのかの答えはでるから」
「なるほど。そうだな、そうだよな! 俺が親友である幼馴染のことを好きになる訳ないよな!」
「……ぶ、ぶふっ!?」
「お、おいちょっ!」
何故か高石のやつは、思いっきりお冷をぶちまけた。汚いな……お笑い要素どこにもなかっただろ。
「あ、ごめん。やっちゃった(だけど、ね。この状況。拗れすぎやないかい。あんたらもう付き合えや……。ごめん。葉月。これまだまだ時間かかるかも)」
やれやれといった感じだが、俺と高石はもう少し話をしてから、それぞれ帰路につくのであった。
♦︎♢♦︎
高石とファミレスに行ったあの日から早1週間がたった休日のこと。ちなみに、葉月の俺拒絶週間は2週目に突入している。
あぁ……モヤモヤがとれねぇ。何故か葉月が恋しい。当分、話をしてないからだろうな。しかも、何か離れてみて気づいたが葉月ってあんなに可愛かったけ?
思えば葉月とずっと一緒にいたからこそ、葉月の可愛さを客観的に見れていなかったのかもしれない。
男友達と言わんばかりにつるんできた葉月だが、今はもう………。あぁ、何考えてんだ、俺!
一人頭を抱え込んでいると、我が妹である雪菜がトントンと肩を叩いてきた。
「うかうかしてたら、葉月ちゃんの隣もうずっと歩けなくなるよ? 翔兄」
ニマ〜っとした悪顔で俺を煽ってくる雪菜。
「……歩けなくなるってそんな訳」
「このままじゃ。歩けなくなるよ、絶対に。そもそも翔兄にとって葉月ちゃんは何? 親友? 幼馴染? それだけ?」
「俺にとって、葉月は————」
言おうとしたところで、雪菜に遮られる。
「その答えは、葉月ちゃん自身に言ってあげるべきだよ! だから、行ってこい! 翔兄」
「……でも、あんなに拒絶されてんだ。今更、葉月は向き合ってくれるかな」
あの俺にだけ冷たい態度。俺はそれを恐れずにはいられない。もし、真剣に向き合おうとして拒絶されたら……。その不安が拭えなかった。
「翔兄と葉月ちゃんの絆ってそんなもの? 親友なんでしょ? 幼馴染なんでしょ? それは翔兄が1番わかってることじゃない?」
雪菜に言われてはっとする。そうだ。俺と葉月はそんな簡単に切れる関係じゃない。お互いの良さも悪さも互いが知り尽くしているんだ。
俺は、雪菜に『ありがとな』と感謝して家を飛び出した。
♦︎♢♦︎
隣の家だから、ということもあって3分クッキングの時間よりも早く葉月の家に着いた。
ドクドクと高鳴る心臓を払い除けるかの様に、インターホンを鳴らす。
葉月……葉月……葉月。
何度も胸中でそう名前を呼んでいると、ガチャリとドアが開かれた。
「……何?」
怪訝そうな顔に胸がドキッとするも、俺はほっと胸を撫で下ろした。
そして、ふぅと一つ息を吐いてから口を開く。
「葉月。俺、お前に伝えたいことがあるんだ」
熱意がこもった瞳で、葉月の瞳を捉えると葉月は途端に目を見開き頬を紅潮させる。
「もうっ。遅いよ……」
「悪い……」
葉月の顔をよく見ると、目尻に涙を溜めていた。それが何故だかは分からないが、ただお互いの気持ちが繋がっていることは不思議と分かった。
潤んだ瞳の葉月に俺は改まって声をかける。
「……俺、お前のこと男友達っていうか。最高の親友だと思ってたんだ」
「うん……」
俯く葉月。
「……だけど、俺さ。離れてみて気づいたことがあるんだ。俺、葉月がいないとダメだってことに。お前の好きな人が誰なのかは分からないし、お前の気持ちもわからない。だけど、だけど俺は——」
そこまで言って口を紡ぐ俺。両拳に力を入れすぎて血管が筋肉がはち切れそうになる。
お前にとって、幼馴染は幼馴染だろ? 恋愛対象外なんだろ?
なぁ、思いを伝えるのはやめとこうぜ? 葉月だって好きな人がいるって言ってたぞ? 身を引くのが優しさってやつじゃないのか? 告白で全て壊れるかもしれないんだぞ?
心の中の臆病な俺が、『やめとけ、やめとけ』と言って告白を遮ってくる。勇気がでない。あと一歩だというのに………。
そんなチキン野郎をみて、葉月は何を思ったのか聖母の様な顔で————
「大丈夫……大丈夫だから」
俺の心を見透かしている様なその瞳に、全てを包み込むかの様な暖かさ。
俺は葉月の温もりを感じ取った瞬間。自分でも知らぬ間に口走っていた。
「……好きだ」
「それは、幼馴染として?」
「違う」
「それは、男友達として?」
「違う」
「それは、親友として?」
「違う———俺は、葉月がそのお、女の子として」
顔を真っ赤にしながら言うと、葉月はクスッと微笑んだ。
「顔……真っ赤だよ?」
「は、葉月だって……」
互いに目を合わせては、チラチラと視線を逸らす。そんなもどかしい時間を過ごしていると。
「ヒューヒュー。いちゃついてくれちゃってー! 翔兄、葉月ちゃん! 今日は盛大にパーティーだね!!」
背後に雪菜がいることに気がついた。い、いつからいたんだ……。俺、妹に告白とまどってる姿見られてたりしたら恥ずか死するんだが。
「……一部始終見てたよ? 翔兄のこと」
「いやだぁぁぁぁ、誰か俺を殺してくれぇ!」
それから一悶着あって、我が家でパーティをすることになったのだが、そこで判明した驚愕の事実。何と、葉月の塩対応は俺に葉月のことを気にかけさせるためだったようだ。
要は俺はまんまと罠にはまったらしい泣。
俺と葉月と雪菜は三人で仲良くパーティをした。
『あの、私呼ばないとか酷くない!』と高石に怒鳴られるのは後日のことなのだが、これはまた別の話。高石:(いや、私の扱い雑すぎない!?)
♦︎♢♦︎
それからというもの。俺は幸せな日々を過ごしている。葉月と少しずつではあるが、異性として距離を縮められている様な気がする。
ほんと、幼馴染と付き合うとかあり得ないと思っていたのにな。
『おい、本当にお前ら付き合ってないのかよ?』
この手の類は今でもよく聞かれることだが、俺と葉月は高々とこう返している。
「「付き合ってます!」」
(了)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
あとがき
ラブコメの短編挑戦してみました。やはりというか短編はすごく難しいですね。字数的な問題でかなり後半駆け足で書きました。とりあえず本作はこれにて完結ということで。
面白いと思ってくださった方は評価・フォロー・応援の方していただけると嬉しいです。
【短編】親友である幼馴染を好きになるわけがない! 脇岡こなつ(旧)ダブリューオーシー @djmghbvt
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます