第51話 坂戸 慈眼寺の枝垂れ桜 その三

51坂戸 慈眼寺の枝垂れ桜その三


   平成二十二年四月十日


 近くを通ったので慈眼寺へ寄ってみる。


いつ来ても寂しく感じる樹である。


今日は境内からスケッチする。


花見客は多くはないが少なくもない。


入れ替わり立ち代わり花見に来るがすぐに帰ってゆく。


珍しく本堂の戸が少し開いていて、中のご本尊様が見える。


ふと枝垂れ桜越しの観音様を描いてみたくなったが


私の力量では思ったように描けないと思って断念する。


このひらめきはいつか、イメージの布絵にしてみたい。


慈眼寺は枝垂れ桜の他、回りの里山に咲く桜の景色が好きで


通ってきている。


大根の花と呼ばれる紫の花が群生している所も多く


下に大根の花の紫色、菜の花の黄色、上には桜の花のピンク色があって


里山の春の景色の代表だ。


車でくれば坂戸団地の周りに咲く桜の花を愛でながらドライブも楽しい。


こういう何でもない景色を描きたいものだが


今は桜を描くことに夢中である。


特に、枝垂れ桜や一本桜に心惹かれる。


何故なら何百年という歳月を生き抜いて来て、今ここにあり


私に素敵な姿を見せていてくれるから・・・


その歳月に思いを馳せる時、私は泣きたくなる。


ありがとうと感謝する。


そしていま、対面した時に描かないと姿が変わってしまう恐れがある。


台風などで枝が折れたり、あるいは北本のエドヒガンのように


突然倒れて無くなってしまったり・・・


だから私は暇を見つけては描きに来る。


まだ元気でいるかと確認に来る。


そして、まだ私が逢っていない桜の樹を探すのである。

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