第22話 竜ヶ崎 般若院の枝垂れ その一

22龍ヶ崎 般若院の枝垂れ桜 その一

      


   平成十六年三月三十日



 JRの「駅からハイキング」という小冊子で龍ヶ崎にある


般若院の枝垂れ桜の写真を目にする。


推定するに結構な年数のたった幹の太さと花の先具合の様子のよさに一目で惚れてしまう。


どうしても、今年見てみたいという気持ちに囚われてしまう。


一度、そう思ってしまうともう実際にこの目で見ないと気のすまない性質である。


時刻表などで調べてみるとそう遠くは無い。


特急に乗らなくても普通電車で日暮里から約一時間位で着く。


花の時期はいつなのか、それが問題である。


桜とひと口に言っても早咲き、普通咲き、遅咲きとある。


巨樹の本から抜粋してメモしてあったものを見ると花の時期は四月十日頃とある。


ということは今年は暖冬で開花が早まっているため、その一週間前から十日前と


計算して三月三十日に出かけることにした。


ところが天気が問題である。


数日前の予報だとその日は崩れるという。


私の心は恋人に振られたかのように乱れる。


雨でも出かけるか。


雨だとスケッチが出来ない。


見るだけで満足できるだろうか。


来週に延ばそうか。


それとも来年に・・・


春になると桜イコール命の私にとって一週間に一度しかない貴重な一日を


無駄に過ごしたくない。


とりあえず、咲き具合を確認するために龍ヶ崎の観光課に電話して聞くと今が見ごろだという。


これは行くしかない。


本当は写真を見たときから何が何でも出かけるつもりで居た。


ただ、出かける為の言い訳が欲しかったのである。


三十日朝、七時 窓を開けると明るい曇り空。


とりあえず雨ではないので出かけることにする。


龍ヶ崎駅にはお昼に着く。


車中で見た空は今すぐに降ってくる様子はないのに安心したと思ったら


急に空が暗くなって少しほほにポチッと当たる。


まさかそんな。


まだ桜の姿を拝んでいないのに。


運が悪いのも限度がありそうだとブツブツ言いながらお願いだから


二、三時間持ってと空に祈る。


祈りは運のよいことにすぐに効き目があらわれた。


すぐに傘は必要は無いようである。


さて目的の桜にはどうやってたどり着くのだろう。


駅前には何の案内板もない。


ふと不安になる。


たいした桜でない為に何の案内も無いのではないか。


わざわざ遠くから来るほどの桜ではないのでは・・・という思いが頭を横切る。


でも、来てしまったのだから見るだけ見ていこう。


JRの小冊子を手に勘を頼りに歩く。


何の臭いか独特の臭いのある町だ。


ご他聞にもれず商店街は貸し店舗が目立つ。


観光地でないせいか街の中に何の標識も無い。


道路標識も乏しくて正しい道を歩いているのかどうかも判断できない。


食べ物屋も無いので、美味しそうなパン屋さんを見つけたので


道を尋ねがてらパンを買い、お昼用ににする。


四つ角に戻って五十メートル位歩いたところにその寺はあった。


何の変哲も無い山門、奥に本堂が見え、その奥に白っぽい色の桜が見える。


がしだれではない。


山門に二十七、二十八桜祭りと書いてある看板のみ・・・


えっもしかして勘違いだったの


枝垂桜の情報は。


桜が見えないよー。


枝垂れ桜はどこ、どこ。


心が少し焦る。


早ブル心を抑えてゆっくりと足を運ぶ。


本堂の左脇から本堂裏へ恐る恐る歩いていく。


あった。あった。


しだれがあった。


大きな何とも美しい桜がでんと控えていた。


裏庭の敷地いっぱいにその艶姿があった。


良かった。ほっと胸をなでおろす。






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