第15話 裏話 ケビン

 ライハルト様やフィリアナ様に何かがあってはいけないと、監視を付けていたモモーナとクラウスが急接近していると聞いた。

 何かを企んでいては困るので、監視を強化しつつ、自分でも二人の様子を見に行った。二人ともが報告通り学生時代とは別人のようだった。


 何度か様子を伺っていたが、今の二人ならまともな話が出来そうだし、いつまでも監視をつけているのもお金がかかる。

 二人が休日に食事をしている時を狙って話しかけてみることにした。モモーナは私の顔を見るなりとても驚いていたが、クラウスは私が誰かさえ分からないようだった。


 モモーナが私がライハルト様の側近だとクラウスに話した時、クラウスはとても驚いていた。一応ライハルト様の側近候補を自称していたのに、それは無いだろうと思った。

 私の目的を話すと二人は相談をして、荒唐無稽とも思える話をしてきた。けれど、二人が嘘をついているようには見えなかった。


 取り敢えず他の人の調査もして、その結果も見て考えることにした。また連絡すると言うと、二人は何かを決意した様な表情をしていた。

 二人は既に罰を受けているし、そんなつもりは無いのだが。本当に学生の時とは別人としか思えない。


 調査の結果、人によっては同じ現象に陥っていたと考えられる、程度の事しか分からなかった。曖昧過ぎる。何かの力が働いていた可能性についても調査したが、何も分からなかった。

 商人の息子は別人と言うより元に戻ったと周囲に言われているが、それはクラウスから既に聞いている。残りの二人は判断しがたかった。


 金目当ての婚約をしていた男は元々どうかと思う性格だったようだし、騎士団長の息子は今もモモーナに純愛を捧げるとか訳の分からん事を言っている。

 明らかな変化があったのは三人だけ。そしてその三人は自分の変化に自覚があった。他の人にはその感じは無かった。


 微妙な調査結果にもやもやしていたら、ライハルト様に見つかった。


 こういう時だけは本当に鋭い。仕方なく二人の話をすると、ライハルト様には思い当たる節があると言う。この人の謎の知識は本当に侮れない。

 ライハルト様の希望で、モモーナにクラウス、四人で会うことになった。


 ライハルト様の話は信じられないものだった。ライハルト様には前世の記憶があり、この世界の話を小説で読んだという。

 乙女ゲームというものがあり、それではヒロインであるモモーナが素敵な男性と恋をして幸せになるよう仕向けられている。


 けれど、ライハルト様が読んだ小説は、モモーナがライハルト様を選んだことで、婚約破棄される婚約者、カリーナ様主役の物。

 カリーナ様は冤罪を晴らしてディーハルト様と幸せになる話だったという。不思議でしかないが、カリーナ様とディーハルト様が会っていたのを見ても非常に冷静だった事が思い出される。


 そういった世界では、物語に沿って実際に進む事が多く、齟齬が出るとある程度話の筋に戻される事もあるらしい。

 本来の乙女ゲームでヒロインの相手に選ばれるのは、女性の理想とする男性が多いそう。けれど、捨てられる側の令嬢が主役となった場合は、ヒロイン含めどうしようも無い人間ばかりに変更されている事が多いそうだ。


 意味はわからない、が。二人に起こった現象を考えると言いたい事は分からないでもない。そして、乙女ゲームや小説としての物語が終わると、そういった謎の力は働かなくなると考えられる事が多いそうだ。

 それは綺麗にモモーナとクラウスに当てはまる。詳しい事は分からないが、二人が心配していたもう一度頭がおかしくなることは無いだろうという言葉に、二人は本当に安堵していた。


 私も二人の立場なら当然そう思うだろう。今が充分幸せなのに、アンナを裏切りライハルト様の元から離れるなど想像も出来ない。

 実際に離れてしまった後で正気に戻ったなどと、考えただけでもゾッとする。


「起きた事をなかった事にするほど私に力は無い。けれど、困った時はケビンに声をかけて。申し訳ないけれど、フィリアナが不安に思うような事を私はしたくないし、二人がフィリアナに会うのも遠慮して欲しい」

 相変わらずライハルト様はお人好し過ぎる。


「とととととんでもないです」

「本当に困った時にはお願いするかもしれません。その時はよろしくお願いします」

「ちょっと!」


 モモーナは恐縮していたが、クラウスは現実主義者のようだった。二人は来年結婚するらしい。貴族と何らかのトラブルがあれば二人では解決できない。

 二人とも元貴族だからこそ、何かあった時の保険が手に入れられたとクラウスは安心していた。二人は何度も謝罪しながら立ち去った。


 半ば操られていた様な状態であったのなら、仕方が無いとも思う。気になっていた事があってライハルト様に聞いていみた。


「ライハルト様が幼い頃から悪評ばかり流れていたのですが、その事に心当たりはありますか」

「あぁ、私が読んだ小説でそうだったな。強制力が働いていたのかもね」

 出所が曖昧だった理由が解決した様な、しない様な。不気味さが増しただけだ。


「ディーハルト様とカリーナ様の事ですが…」

「小説で二人は相思相愛の仲良し夫婦だった。過程はどうあれ小説と同じ様に結婚は出来たのだから、影響があってもなくても同じじゃないかな」

 二人がとっくに破綻している事は言わないでおいた。


「心配しなくても、言われている通り今後も関わるつもりは無いよ」

 それならばいい。


「実際のところは分からないし、気持ちの悪い話だとは思うけれど、ケビンが調査しても何も出なかった以上、これ以上調べても何も分かることはないと思う。二人には安心させる為に大丈夫だと言ったけれど…」

 あぁ、主はこういう人だったと改めて思った。


「そうそう、ケビンもアンナも小説に登場していなかったよ」

 気にしてはいなかったが、そう言われるとより安心する。けれど、ライハルト様自身もその様な事に踊らされていた事についてはどうお考えなのだろうか。

 それについて尋ねると、ライハルト様らしい返事を頂いた。


「今が幸せだから、考えるのは過去の事じゃなくて未来の事だよ。手の届く範囲に限られるけれど、その人たちが幸せでいてくれたら私はそれで幸せだ」


 後でモモーナの実家について調べたところ、モモーナの弟が学校で賭博にはまり借金をしていた。男爵がその返済の為にモモーナを見つけ出して好色家に売り払おうとしていたので、圧力をかけて止めておいた。


 ***

 これにて本編終了となります。ブクマ、星、ハート、コメントを下さった皆様、読んで頂いた皆様、ありがとうございました。おまけを投稿予定です。

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