第12話 監視員ウェイン

 やらかした王子と侯爵令嬢のお目付け役に抜擢されてしまった。一年間田舎で過ごさなければならないし、普通ならする領地経営も見てるだけ。

 退屈な日々になりそうだったが、前任の領地代行が周囲の領主と良好な関係を築いていた為に、挨拶に行った時から歓迎された。


 元王子と侯爵令嬢は常に挨拶に来て貰う側だったせいか、この地域では新参者で今の身分もただの男爵でしかないのに、周囲に挨拶に行く必要性を感じていないようだった。

 あらゆる助言は不要と言われていたので、これらについても黙っておいた。ようやく手紙を出したと思ったら投資の依頼だとは思わなかったが。


 事前にこの領地については多少の勉強をしていると聞いたが、自分たちが裏切ったライハルト殿下が、この地域で何をしたかについては知らない様子。

 領主が言ってやりましたと言っていた通り、自分たちの噂が流れている事に驚いたようだ。以前は箝口令が敷かれていたので広まらなくて当然。


 ただ、ライハルト殿下の婚約者だった女性と第二王子が、男爵となって結婚しているのは誰もが当たり前に疑問に思う。

 公表された途端、一気に噂が広がっていった。皆話したくて仕方が無かったのだろう。尾ひれ背びれがついた状態で地方にまであっという間に広がった。


 そんな二人を支援しようなどという人はいない。そもそも、ライハルト様やケビンの助言で、ライハルト様が掘り起こした産業以外でも収支が成り立つ様に努力している真っ最中。

 自業自得の二人に支援する気は起こらないだろう。男爵領にいる領民については、困窮しない様に各領主と調整済み。


 領民にまで噂が広まっており、移住希望者が後を絶たない。それもそのはず、二人は今の身分に不相応な生活をしている。

 領民は自分たちの為に一生懸命な領地代行を尊敬していたが、今の二人にはそんな義理はない。流れて来る贅沢な生活の様子を聞き、見切りをつけた者が多い。


 借金の返済計画は既に決まっていて、最初の三年間が終われば月々の返済額が増える。それでも今のままでは年寄りになるまで必死に頑張っても返済できないだろう。

 ライハルト様ならもしやとも思えるが、中央で散々流れていたディーハルト様が優秀だと言う噂が、ただの噂でしかなかったと思い知った。


 それなのに、いつまでも贅沢な生活を続け、このままでは借金返済どころか、怪しい人間から借金をする生活になりそうだと思い、許可を取っていかに贅沢な生活をしているかを諭した。

 多少なりとも質を落としたが、まだまだだと思う。そんな報告書を送りつつ、周囲の領主には私の知識を頼りにされる日々。


 思っていたよりはましな生活だった。周囲の領主たちは、皆でお金を出し合って道路整備をしていきたいと言うので、後任にはそれらに詳しい人物をと書いておいた。

 ライハルト様は、投資する際に僅かな利益しか求めなかったが、複数の地方貴族に投資している為に、私財はかなり潤っていると聞く。


 利益還元だと言って、こちらでは手に入りにくい甘味やお酒などを融通して送ってくれるので、未だに地方領主たちはライハルト様大好き状態だ。

 さて、そろそろここでの仕事も終わる。既に王太子殿下から、五年経っても収益改善の見込みが無ければ周囲の領主に領地を割譲すると連絡が来ている。


 五年も待つなんて随分とお優しい事だと思う。五年も放置された領地を元の水準に戻す事さえ大変だろう。その時には、国家予算が分配されるそうだ。

 それなら良かった。安心してこの地を離れられる。


 数年後、中央の役人として働いていたら、大恋愛だ何だと騒いでいた二人が破綻し、三年も持たなかったなという話を同僚から聞いた。

 詳しく聞くと、夫婦の会話はすっかり減ってしまい、ただの同居人の様だと聞いた。

 それに引き換え、ライハルト様の夫婦仲が良いのは有名だし、ケビンもいるから伯爵領の領地経営も順調に上向いていると聞く。


 正直、一人の同じ男として、流されやすい女性と結婚せずに済んでライハルト様は幸せだったのでは無いかと思う。

 下手したら、弟との子どもを自分の子どもとして育てさせられた可能性だってあるのだ。

 幾ら何でも兄弟に手を出すのは駄目だろう。兄の婚約者に手を出す弟もしかり。王太子殿下も無事に結婚され、この国をあんな弟に任せずに済んで良かったと思う。


 不敬になるから大きな声では言えないけれど、役人たちのほとんどがそう言っている。叶うのなら、例え記憶力が悪くともライハルト殿下の治世を見てみたくもあったと言う声もある。

 陛下と王妃様は人を見る目がなかった、教育を間違えたとも言われ、城では王太子殿下夫妻の発言力が日に日に増している。

 

 

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