12――帝(みかど)

御簾の向こうからの声は、意外に野太かった。雅な世界より、武の道が似合いそうにも思える。


「表を上げよ」


 作法通りに平伏していた束帯姿の武尚は、感動の面持ちで顔を上げた。


 この男、生まれついてのと言っていいくらいの尊皇家であり、南朝の末裔である「吉野帝」に絶対と言ってよい忠誠を誓っている。


「此度の逆賊豊臣討伐の勲功、誠に天晴れ。其方を征夷大将軍に任命する。励め」


 既に内示のあったことではあるが、武尚は初めて聞いたような顔で満面の笑みを浮かべる。

 

「有難きお言葉!」

 

 そう言うなり、畳にこすりつけんばかりに頭を下げる。


 やることなすこと大げさなのだが、それがまったく嫌味に見えないところがこの男の不思議なところであった。


 まことに稀有な人徳の持ち主、そう納得するほかはない。


「朕が学究に専念出来るよう、善きまつりごとをせよ」

 

「こん武尚、命ば代えましても!」


 この青年、やはり帝が相手でも、さほど調子が変わらぬらしい。


#100文字の架空戦記

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