1――島津中務大輔武尚


「放てぇ!」

未明の林から音もたてずに突如出現した島津兵の放った鉄砲に、合衆国軍は混乱する。


 戦場となったのは、合衆国の呼び名で言う、ピッツバーグの郊外の森林地帯であった。


 豊臣幕府トヨトミ・ショーグネイト米洲アメリカン公方府ガバメントジェネラルの命令で、不遜にも国境を侵犯しようとする合衆国軍(彼らにその認識は無かったが)を米洲島津家の寄騎衆八千騎が邀撃したのである。


「あいが合衆国とやらん軍勢か。あまり練度が高かごつは見えんが、鉄砲は侮れんな」

 赤い具足に身を包んだ若武者は、遠眼鏡で敵の姿を見ながらそんなことをつぶやく。

 

 突然の待ち伏せアンブッシュに兵の混乱する様が見て取れた。


 だが、指揮官の一喝がそれを収めた。

  

 民族の違いこそあれ、大した偉丈夫であることは間違ないと思われた。


 若武者の表情は、童子のように屈託のない笑いとなる。

 

 人たらしと呼ばれる、値千金の笑顔であった。


 容姿は少なくとも美丈夫と言われるにはいささか足りない。


 どちらかと言えば愛嬌の方が目立つ男であった。


 体躯はといえば少しばかり背が低く、酒樽を思わせる形であったが、肥えているわけではない。筋肉に鎧われているのだ。

 それが証拠に、動きそのものは俊敏そのものだ。


「ほう、よか将がおるのう。首を獲るに値する将じゃ。島津中務大輔武尚しまづなかつかさのだいふたけひさ、参る」


胸甲姿で快活に笑った島津の若武者は、馬上で朱槍を構える。


腰に二丁の短筒ピストルが差してある。


「征くぞ。島津兵子へごん恐ろしさ、そん身に刻め」


彼の背後に続くは島津朱槍クリムゾン・スピア騎兵・キャバルリー二千、そしてその後ろを固める二千の火縄銃フリントロック・ガン騎兵・キャバルリー


言うまでも無く、強力な騎兵軍団であった。


#100文字の架空戦記

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