悪食
ドラゴンの翼筋は筋が多いから、溶岩石と一緒によく煮込む。スライムは天日干しすると、戻し汁にいいダシが出る。グリフォンは上半身と下半身で肉の質が全然ちがうけど、粗びきにしてよく練ると、二種類のうまみが重なってとてもおいしい。
魔法動物ジビエ料理は、その風変わりなメニューがウケて、そこそこの客入りだ。それもこれも、あいつが毎日良質なジビエを取って来てくれるからに尽きる。
有害魔法動物専門ハンターであるあいつは、毎日あちこちを飛び回っては、村で暴れたドラゴンや、家屋に住み着いたスライムなんかを狩ってくる。あいつも感謝されて、ぼくも儲かる。狩られた動物の命だって無駄にしない。なんてすばらしい循環だろうか。
それなのに、物事はなんでも、簡単にうまくいきやしない。ある日、めずらしく手ぶらで戻ってきたあいつの右肩は、ひどく焼けて爛れていた。てっきりサラマンダーにやられたのかと思ったけれど、なんと相手は魔法使いだというから驚いた。
「魔法動物愛護団体だよ」
あいつは包帯を巻きながら淡々と話す。
「駆除するお前は悪鬼だから、祓うんだってさ」
その手の嫌がらせは当然ぼくも受けていて、誹謗中傷はもちろん、心無いビラが巻かれたり、直接呪いの手紙が届くことだってあった。もちろん、あちらさんの主張も分かる。けど、これはやりすぎだ。ぼくは治癒魔法をかけながら、頭を悩ます。
いろいろ考えて、彼らに料理を食べてもらうことにした。
新鮮な食材を、丁寧に臭みを取ってよく煮込む。何度も試行錯誤を繰り返し、ようやく完成したその料理を携えて、ぼくは愛護団体の皆さんに直接話し合いに行った。
フクロウ便の返事の通り、ちくちく刺さるような視線のなか、ぼくは作ってきた料理を試食してほしいと頼み込んだ。
「愛する動物たちの肉を使ったものなんて、おぞましくて口なんかつけられない」と一蹴されたけれど、100%非動物性の料理であること、必要なら誓約だってする、とぼくは訴えた。
「ぼくが伝えたいのは、ぼくたちは、決して命を粗末にしているわけではないということです。この料理は、いわば野山で採れた野生の植物なんかを使ったものですが、どんなものにも命があって、きちんと下処理すればおいしくなる。あなたたちの主張を否定はしないけど、ぼくたちだって、決して食欲に突き動かされて動物を狩っているわけではない。むしろ彼らを尊重するために、おいしく食べていることを分かってほしい」
必死で力説し、ようやく口をつけてもらえた。はじめはおそるおそる進んでいた匙が、次第にスピードを増していく。「おいしい」という言葉をもらえるころには、するどい視線もかなりやわらかくなっていて、ほっとした。
「とても繊細だわ」
「大変な手間がかかったでしょう」
スープ皿が空になるころには笑みすら浮かべて労われたから、やっぱり食事はすばらしい。
「この肉団子も植物性なの?」
感心したように尋ねられ、ぼくは気分よく答える。
「ああ、それは悪鬼の肉ですよ。悪鬼は祓うって言ってたので、それは対象外なんだなって、そこの谷で狩ってきました。臭みがきついので、ハーブをかなり使わないといけないんですけど、それさえ処理すれば、うまいでしょう?」
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