エンドレス大晦日ナイト
黒豆を煮る手を止める。あれ? なんかこれ、前もやらなかった?
大晦日を繰り返していることに気づいたのが、一体何回目のときだったかは分からない。分からないけど、とにかく、わたしたち一家は12月31日を延々と繰り返し続けている。
朝から子どもを叩き起こして宿題をさせ、ソファから夫を引きはがして買い物に行かせ、ネコにエサをやり、わたしは昼から次の日のおせちを作り続ける。いつの間にか日は暮れて、あわててシーツを取り込んで、その片手間に天ぷらを揚げ、ソバをゆでてこたつに乗せ、紅白とガキ使を見て、気づけばカウントダウンが始まっている。
ここまでは覚えているのだ。
長針と短針が重なった瞬間、気づけばまた朝になっている。エンドレス大晦日。せめて、子どもが課外学習で、夫が出張の日ならまだマシだった。端的に言って、最悪だ。
わたしは栗きんとん用の芋を潰しながら落ち着けと言い聞かせる。
大丈夫。こういうの、アニメとかで何回も見た。
そう、たいていこういうのは、ループを起こしている原因がいるのだ。こんなクソ忙しい日を、永遠に繰り返していたいと思っている輩がいるのだ。そいつの願いを叶えてやれば、年は明けるはず。
わたしは毎回、もし元旦が来てしまったとき用に忙しく働きながら、家族を観察した。
クリスマスに買ってもらったゲームに夢中な子どもたちか?
年末年始休暇にとろけている夫か?
まさかまさか、自分が深層心理で繰り返しを願っているのか、とも考えたけど、冷蔵庫を殺気立った目で睨んでいる自分が、たとえ無意識だとしても、そんなことを思っているはずはない。年に一度だって面倒なのに、毎日なんて、悪夢だ。
抜け出そうと、いろんなことを試した。夫に優しくしてみたり、子どもたちを宿題で縛らず延々とゲームをさせてみたり、おせち作りをボイコットしてデパートに繰り出してみたり、ネコにワンランク高いエサをやってみたり。
あらゆることを試したけれど、どうにも手がかりがつかめない。え、もしかしてわたし、このままずっと、延々とおせち作り続けんの?
何度も見て、ネタもオチも覚えてしまったテレビ番組を呆然と見つめていると、ふと、腰のあたりを叩かれた。もうすぐ20歳になるうちにいるネコが、ちいさな前足でわたしをつついて呼んでいる。
なんだいなんだい、と付いていくと、ネコは玄関前で座り込んだ。ずっと室内飼いだったこの子は、外の世界を知らないはずだ。
でもまあ、今日は大晦日だし、外の空気を吸いたくなる気持ちも分かる。
3本目のビールを持ったまま、わたしはよく考えずにドアを開けた。ひゅう、と冷たい空気がとたんに流れて、思わず目をつぶった瞬間、にゃあ、と小さな声が耳に届く。しなやかな体がぱっと外に出て、一瞬だけふりかえったそのしっぽが二又に見えたのは、気のせいかもしれない。
そうして無事に年は明けた。すがすがしい空気の中で、ネコだけがいなかった。
繰り返しの犯人は、なんとネコだったらしい。まったく人騒がせなんだから、と戸棚を開けて、わたしは苦笑する。
ずらりと並んだ開きかけのキャットフードのひとつを手に乗って、ネコが使っていた皿に入れた。
せめて食べきってからいけばよかったのに。
玄関先の、落ち着けそうな木陰に皿を置く。薄皮を剥いだように澄んだ空は、目にしみるほど青い。
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